絶対君主制国家の王太子に転生したので、好き放題して理想のハーレムを作ります
高原の石ころ
第1話 王太子への転生
意識が浮上した瞬間、強烈な光と音の奔流に襲われた。 自分の泣き声が鼓膜を震わせる。 視界は白く滲み、肌には柔らかな布の感触。 前世、ブラック企業での激務の果てに心臓を止めた俺――その魂は、新たな肉体を得てこの世界に定着したのだ。
「――おお、見よ! なんと力強い泣き声だ!」
頭上から、歓喜に震える男の声が降ってくる。 ぼやけた視界が徐々に焦点を結び、天蓋付きの豪奢なベッドと、覗き込んでくる威厳ある髭の男を捉えた。 金の刺繍が施されたマント。頭上に輝く王冠。 状況を理解するのに、そう時間はかからなかった。
「元気な男の子ですよ、あなた」
俺を抱いているのは、汗に濡れてなお美しい、金髪の女性だ。王妃だろう。 髭の男――この国の国王は、俺を王妃の腕から受け取り、高々と掲げた。
「この子こそが、我がサンクトローム王国の未来そのものだ! 名はベルゼイン。ベルゼイン・サンクトロームとする!」
王の声が部屋中に響き渡り、周囲に控えていた侍女や医師、近衛兵たちが一斉に平伏する。
「そして今この時をもって、ベルゼインを**『王太子』**に任命する! 余に万一のことがあれば、即座にこの子が全権を握るものとせよ!」
生まれた瞬間の立太子。 前世の常識ではあり得ないが、周囲の反応は当然のこととして受け入れている。 俺の本能が、この世界の理(ことわり)を急速に理解していく。
サンクトローム王国。 国土の実に9割以上が王家の「直轄領」という、極端な絶対王政国家。 ここでは王の言葉こそが法であり、神の啓示に等しい。 そして、この国を支配する鉄の掟が一つある。
――『魔力は、尊き血にのみ宿る』。
魔力を持てるのは王族と貴族のみ。 平民には魔力など欠片も存在しない。たとえ貴族が平民に子供を産ませたとしても、平民の血が混ざった時点で魔力は失われる。 それほどまでに、この世界の「魔法」は血統に紐付いた絶対的な特権なのだ。
(なるほど……。俺は、その頂点に生まれたわけか)
赤子の身体の中で、俺は密かに嗤(わら)った。 前世の俺は、仕事に追われ、金もなく、女性の手を握る暇すらなかった。 だが、今の俺はこの国で最も高貴な血筋、「ベルゼイン」として生まれ変わった。
(決めたぞ。この二度目の人生……俺は欲望のままに生きる)
金も、権力も、そして――女も。 欲しいものはすべて手に入れる。 この国そのものが、父上の、そしていずれは俺の庭なのだから。
決意と共に、俺は意識を内側に向けた。 赤ん坊の身体は不自由だが、精神は大人だ。俺は生後数分にして、大気中に漂うマナを体内に取り込む「魔力循環」を開始した。
通常、幼児の魔力回路など未熟ですぐに焼き切れる。 だが、俺は前世の知識と執念で、限界ギリギリの負荷をかけ続け、器を無理やり拡張していった。 痛みなど、前世の孤独に比べれば些末なことだ。
それから、時は流れた。
1歳で言葉を話し、3歳で宮廷魔術師の理論の穴を指摘した。 5歳になる頃には、父である国王さえも俺の瞳に宿る知性に舌を巻くようになった。 そして何より、俺の魔力量は異常な速度で膨れ上がり続けていた。
王族と貴族にしか許されない「力」。 その絶対的な格差社会において、俺は頂点の中の頂点(トップ・オブ・トップ)に君臨すべく、ひたすらに研鑽を積んだ。
そして――10歳の誕生日を迎えた日。
王宮の訓練場にて、俺は退屈そうに空を見上げていた。 周囲には、父上が視察のために連れてきた宮廷魔術師団のエリートたちが並んでいる。
「ベルゼインよ。今日はそなたの魔力測定を行う。手加減はいらぬ、全力を見せてみよ」
玉座に座る父上――国王アルフォンス・サンクトロームが鷹揚に頷いた。 父上はまだ壮年で、その支配力は健在だ。だが、俺を見る目には親としての愛情と、底知れぬ才能への畏怖が混じっている。
「承知いたしました、父上」
俺は一歩前に出る。 目の前には、魔力を測定するための巨大な黒曜石の標的(ゴーレム)が置かれていた。最高硬度を誇る魔法金属でコーティングされており、上級魔法でも傷一つ付かない代物だ。
「……ふぅ」
俺は指先を軽く振るう。 詠唱など不要。魔法陣の構築すら、今の俺にはコンマ1秒の思考で事足りる。
俺がイメージしたのは、ただの「風」だ。 だが、俺の異次元の魔力が込められたそれは、もはや自然現象ではない。
「――消えろ」
指パッチンを一つ。
ドォォォォォォォォォォンッッ!!!!!
轟音と共に、空間が歪んだ。 黒曜石のゴーレムはおろか、その後ろにあった防壁、さらには訓練場の壁そのものが、見えない巨人の拳で殴られたかのように抉り取られた。 砂煙が晴れた後には、遥か彼方の空へと続く、一直線の「道」が出来上がっていた。
「な……っ!?」
宮廷魔術師長が杖を取り落とす。 近衛騎士たちが、腰を抜かして震え上がる。 そして、父上ですらも玉座から立ち上がり、目を見開いて絶句していた。
「……少し、やりすぎましたか」
俺は何事もなかったかのように埃を払い、振り返った。 10歳の少年の所業ではない。 この一撃は、俺が単なる「次期国王」という枠を超え、この国における最強の個体であることを証明してしまった。
(力は手に入れた。父上が国を治めている間に、俺は俺の楽しみを追求させてもらうとしよう)
俺は銀髪をかき上げ、紅い瞳を細める。 魔力(ちから)の次は、華(おんな)だ。 前世では叶わなかった「ハーレム」の構築。 この身分と、この力があれば、誰にも文句は言わせない。
今夜、王宮で俺の誕生日を祝う夜会が開かれる。 そこには国中の有力貴族たちが、着飾った娘を連れて集まるはずだ。 俺は唇の端を吊り上げる。
「さて、品定めの時間といこうか」
絶対的な魔力を手に入れた転生王太子の、覇道と愛欲の物語がここから始まる。
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