第17話 再びおっさんを陥れようとする貴族たち

 レイドがティアとフィオーレの個人指導に勤しんでいたころのこと。



 学院の奥深くのある一室では、レイドを貶めるための醜い陰謀が着々と進行していた。





 その中心にいたのは、やはり『ヴァルド・セリウス』だった。





 彼のレイドに対する恨みは想像以上に根深いものだったのだ。


「ぐぬぬ……! あの平民教師め……! まさか、あの2人の落ちこぼれを本当に合格させるとは……未だに腹が立つ! いや、それどころじゃない。あの決闘だ! 授業参観の日にグランベルク侯爵の次男坊をあそこまでコテンパンにするとは……! まぁ、所詮は次男坊だということか。クソ……こうなったら長男の方を投入しておけば」


 ヴァルドは自室で、荒々しく机を叩いた。

 彼の顔は怒りで歪み、目の奥には狂気じみた光が宿っている。


 アランが決闘を申し込んだ際、その取り巻きの下級貴族出身生徒は困っていた。


「セッティングするって言ったものの……どうすりゃいいんだよ」


 決闘場所の確保など入学したての1年生にできるはずもなかったのだ。


「なにか困っているのかね」

「あ、ヴァルド先生! じ、実は……」


 ヴァルドはその生徒から事情を聞いた。

 すると――――。


「わかった。任せなさい」

「あ、ありがとうございます! ヴァルド先生! これで怒られないで済みます!」


 その後、ヴァルドは速やかに授業参観と決闘場所をセッティングし、多くの貴族の親たちを呼び寄せた。


 彼の目論見はそこでアランがレイドを叩きのめし、レイドに恥をかかせ、学院から追放することだった。



 ところがうまくいかなかった。



 アランが無能過ぎたせいで、逆にレイドがその圧倒的な実力を見せつける結果となり、レイドの印象を上げてしまったのだ。


「まさか、あの平民教師が、無属性魔法まで使えるとは……! 五属性の魔法を操るなど、勇者ハルトとその娘である学長くらいしかいないはずだ! あんな下賤な輩がなぜあのような力を持っている⁉ まったく、貴族の顔に泥を塗ってくれたわ!」



 ヴァルドはレイドの存在が学院内で日増しに大きくなることを、ひどく恐れていた。



 平民であるレイドが貴族の聖域であるこの学院で力を持ち始めれば、貴族至上主義の秩序が崩れてしまう。



 それは彼が何十年もかけて築き上げてきた、貴族の権威と既得権益を脅かす行為に他ならなかった。



「このままでは平民勢力がつけあがってしまうではないか……! そんなことは断じて許さん! なんとしてでも、あの平民教師をこの学院から叩き出してやる!」



 ヴァルドはそう決意すると本格的にレイドを追放するための措置を取り始めた。


 彼はまず、学院の古参教師たちの中で自分に賛同する者たちを集めた。


 彼らもまたレイドという異分子の存在を快く思っていない者ばかりだ。


「いいか、諸君。あの平民教師は学院の秩序を乱す危険な存在だ。学長もあの平民教師に騙されている。我々貴族が学院の、そして王国の未来を守るためには彼を排除するしかない」


 ヴァルドはそう言って仲間たちを扇動した。

 彼らはヴァルドの言葉に賛同し、レイドを追放するための具体的な計画を練り始めた。





 彼らがまず行ったのは書類の偽造だ。



 レイドが担当している授業の報告書や、生徒の成績表などを改ざんし、レイドの指導力が不足しているかのように見せかけたのだ。


「これであの平民教師がいかに無能であるかを証明できるだろう。ヤツの授業は実戦的などという名ばかりで実際には基礎すらなっていないのだと!」



 ヴァルドはそう言って高笑いした。



 次に彼らはレイドの授業内容に難癖をつけ始めた。



 レイドの授業は実践を重視しているため、従来の貴族的な魔法理論とは一線を画している。


 彼らはその点をとらえ、『伝統を無視している』、『間違った魔法を教えている』などと、ありもしない罪を着せようとしたのだ。




「ヤツの教えはこの学院の何百年もの歴史を否定するものだ! あれは魔法ではない! ただの邪法だ!」




 教師の1人が憤慨したように言った。

 彼らは自分たちの既得権益を守るためなら、どんな手段も厭わないようだった。


 そして、彼らは最終手段として、教員会議での『吊し上げ』を計画した。


 教員会議は学院の運営に関する重要な決定がなされる場だ。

 そこでレイドの『不正』や『無能』を徹底的に糾弾し、全教師の前でレイドを晒し者にしようというのだ。


「これで、あの平民教師も終わりだ。ここでレイドを潰し、二度と貴族の前に這い上がれないようにしてやる!」


 ヴァルドはそう言ってニヤリと笑った。

 彼はこの計画が完璧だと信じて疑わなかった。





 ――――そして教員会議の日がやってきた。

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