地雷少女達の愛は重い ~助けたヤンデレ量産系巨乳美少女達にストーキングされて人生詰んだ件~

尾津嘉寿夫 ーおづかずおー

第1話 確かにラブホには行ったけれど……。

◆◆◆◆


 時刻はもうすぐ午前0:30。頭を掻きむしり長い時間にらめっこをしていたPCを、そっと閉じる。


 今日も進捗は何もない……思わず奇声を発しそうになった瞬間、玄関のチャイムが鳴ったので、喉元まで出かかった奇声をゴクリと飲み込み重い腰を上げる。こんな夜更けに誰かと約束をしているわけもなく、何か宅配を頼んだ記憶もない――そもそも宅配業者はさすがにこんな時間まで仕事をしていないだろう……。


 それにもし友人や宅配であれば、このマンション自体の入り口で一度インターフォンを鳴らすはずだ。俺の住むマンションにはカメラ付きのインターフォンが設置されており、マンションの入り口で俺の部屋の番号を入力すると俺の部屋のチャイムが鳴りモニターに顔が映る。


 つまりマンション内の人間――マンションの住人か……。もし俺が奇声を上げることを事前に察知したお隣さんであれば、お隣さんはエスパーだと言うことになる。


 俺は片目をつぶり玄関の覗き穴を覗く。のぞき穴からの視界は狭くよく見えないが、2つのビニール袋を持った女性が立っていた。黒髪にピンク色のメッシュが入ったボリューム感のあるツインテール……俺は彼女に見覚えがある。


 しかし友人はおろか、知り合いと呼べるほどの間柄ですらない。昨日出会ったばかりの女性だ。しかも、彼女に俺の家の住所を教えた記憶はない……。


 再びチャイムが鳴ったため、U字ロックを引っ掛けたまま少しだけ扉を開き隙間から恐る恐る話しかける。


「どうして君がうちに来ているの……? そもそも俺、君に俺の家の住所教えたっけ?」


 彼女は目を弓のようにしてニコリと笑い、両手のビニール袋を俺に見せる。


「駅前でたこ焼きを買ってきたの。一緒に食べよ。」


「はい?」


 俺の疑問に対する返答とは全く関係のない答えに思わず疑問の声が口から飛び出た。きょろきょろと、マンションの廊下を見回す彼女をしり目に、混乱する頭の中を整理しながら、一つ一つ疑問を問いかけた。


「あの……まず、どうやってマンションの中に入ったの?」


「ちょうどこのマンションに入る人がいたから、その人の後ろをつけてきたの。ちゃんと『こんばんは~』って挨拶もしたよ。」


 きっと彼女につけられた人も、彼女をこのマンションの住人だと思ったんだろう。


「そもそも、どうやって俺の家を見つけたの? 俺、君に住所教えていないよね?」


 すると彼女は面倒くさそうに「んっ」と、両手に持ったたこ焼き入りのビニール袋をこちらへと差し出す。ビニール袋からは「飯テロとはまさにこのこと!」と言わんばかりのソースと鰹節の美味しそうな香りがした。


 U字ロック越しではビニール袋を受け取ることができないため、仕方なくロックを外して、少しだけ扉を開き滑るようにマンションの廊下に出て後ろ手に扉を閉める。


 そしてビニール袋を受け取ると、彼女はリュックサックからスマホを取り出して何度か画面をスワイプし、印籠のように俺の目の前に自身のスマホ画面を突きつけた。

 

 そこには、俺の免許証がバッチリと写っている。


「ちょ……これ……なんで!? いつ撮ったの?」


「今朝、ラブホで貴方がシャワーを浴びている間に。」


 慌てふためく俺の様子など気にも留めず、まったく悪びれる様子もなく――それどころか「何かおかしいことでも?」と言いたげな――キョトンとした表情を浮かべる。


 俺は頭を抱えながら彼女に言った。


「それ……犯罪じゃない?」


「え? なんで? 別に貴方の財布から現金を抜き取ったり、カードを不正利用したりしていないけど。」


「そういう訳じゃなくて……。」


「それに貴方、昨晩ラブホで私に言ったじゃない、『最後まで面倒を見てやるよ。』って……だから、面倒を見てもらうために来たんだよ?」


 そう、俺と彼女は昨晩ラブホテルに泊まった。しかし、やましいことは一切していない。そのれどころか、同じベッドですら寝ていない。酔いつぶれた彼女のことを休ませるために仕方なく、緊急避難としてラブホテルに泊まっただけだ。

 

「それは確かに言ったけれど、そういう意味じゃなくて『酔いつぶれた君のことを介抱するよ。』って意味に決まっているだろう!」


 思わず少し強めの語気でまくし立てると、彼女も語気が強まる。


「決まっているだなんて、誰が決めたのよ! それに貴方、ホテルではもっと優しい声で囁くように言っていたじゃない。そんなことをされたら、勘違いするわよ。」


 同じフロアの人に聞かれたら、いらん誤解をされかねない表現に思わず少しだけたじろいだ。そんな俺のことを察したのか、彼女は一瞬――しかし確かにニヤリと笑ったかと思うと、大きな声でまくし立てる。


「ホテルではあんなに優しかったのに、貴方ってそういう人だったのね!」


 俺は完全な善意で彼女を介抱したのに、こいつ恩を仇で返してきやがった! しかし、これ以上ここで話すのは危険だ。何を言われるか分かったものじゃない。


「き……今日はもう遅いから帰ってくれないか?」


「もう終電なくなっちゃった。それに、こんな夜中に私一人で帰れっていうの?」


「タクシーを呼ぶよ。それに家まで送る。家はどこ?」


「そうやって、私から逃げる気でしょう。私、お口でするの苦手なのに頑張ったんだよ……。」


 彼女は両手で顔を覆い震える声で叫ぶ。「お口でするの……」って、彼女は上手く吐くことができなかったので、俺が彼女の口に指を突っ込んで吐かせてやったんじゃねえか! 頑張ったのはむしろ俺の方だ!


 しかしもし、この場をマンションの誰かに見られたら、俺が彼女のことを散々弄んだ挙句、面倒になって突き放したクズ男にされかねない。


「じゃあ、せめて場所だけでも移動しよう。24時間営業のファストフード店で……。」


 彼女は指の隙間から、ちらりと俺の方を見てつぶやいた。


「たこ焼き……。」


 俺はビニール袋から漂ってくるソースと鰹節の入り混じった、おいしそうな香りを感じながら目を細めて天を仰いだ。心の中で「チクショウ」と嘆きながら……。

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