第5話

      五 確信


「人間の脳の血管が脆くて破れやすいのは、脳の肥大に血管の進化が追いついていないからだという説がある。誤嚥性肺炎という病気は、飲食と呼吸を同じ管でやるようになっているから起こる。つまり、進化は完璧じゃないのだ。行き当たりばったりなんだ。目の前の必要に迫られて応急処置的に体の構造を変える。すると別のところで弊害が生じて、次の進化で対応する。その繰り返しが進化だ。脳のサイズも進化のルールからは逃れられない。これまでは生存に有利だから肥大してきたが、環境が変化すれば小さくもなる。そして将来、環境は必ず変わる」


「なんか安心したー」

「え。どうして」

「だって、うちの大学じゃ卒業したってろくな就職先ねえだろ。将来は不安ばっか。でも今のはなしだと、偉そうにしてる勝ち組連中も、ずーっと未来にはおれらと同じくバカになるってことじゃん。なんかいい気味じゃね」

「きみ……すごいな」

「もしかしておまえ、さっきの教授のはなし理解できなかった? おれが説明してやろうか?」

「いや、だいじょうぶ。ありがとう」


 ――ここに検証された仮説は左記のごとく要約されるでありましょう。人為的に誘発された知能は、その増大量に比例する速度で低下する――

 ――すべての指標によれば、私自身の精神的退行はきわめて迅速であろうかと思われます――

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