へプタスロン!~クイーンオブアスリート~

阿弥陀乃トンマージ

月代渚の場合

「わあああっ!」

 ミニスカートの制服姿のギャルが砂の上を大声をあげながら全力疾走する。軽くウェーブがかかった長い金髪が揺れる。

「……OK!」

 ショートカットで眼鏡をかけた女の子が自らの眼前を走り抜けたギャルに向かって声をかける。

「……はあ、はあ……どう!?」

「ベストタイム出たよ! 渚!」

 ショートカット眼鏡が左手に握ったストップウォッチを高く掲げる。

「いやいや! 動画は!?」

 渚と呼ばれたギャルが、ショートカット眼鏡の右手に握られたスマートフォンを指差す。

「あっ……」

 ショートカット眼鏡がペロっと舌を出しながら、自らの後頭部を右手でポリポリと掻く。渚が歩み寄りながら尋ねる。

「まさか……撮ってない感じ?」

「そのまさかだね……」

「いやいや! マジ勘弁だし!」

 ショートカット眼鏡の返答を聞いた渚が天を仰ぐ。

「ごめんごめん……」

「ごめんじゃないし!」

 渚が地面に胡坐をかいて座り、不貞腐れる。

「……もう一本走ろうよ」

「キツいっての!」

「渚の走るフォームってとっても綺麗だからさ、動画を撮るのをついつい忘れちゃうというか……」

「綺麗なら是非とも動画に収めて! 何万回とリピート再生出来るよ!?」

 渚が両手を大きく広げる。

「どうしてもストップウォッチの方に意識がいってしまって……マネージャーの性ってやつだね……」

 ショートカット眼鏡が苦笑を浮かべる。

「ったく!」

 渚が地面に横になり、ショートカット眼鏡に背を向ける。

「……渚?」

「……」

「……競技に復帰……」

「しないし」

 ショートカット眼鏡の言葉を渚はさえぎる。

「え?」

「復帰しないつったの」

「どうして?」

「……ウチはね!」

 渚が体を起こし、ショートカット眼鏡に顔を向ける。

「!」

「モテたいの! 愛しの彼ピとラブラブハッピーな青春を送りたいの!」

「!?」

「もう一年は陸上に捧げたからいいっしょ!? 春から華の高校二年生! もう残された時間は少ないの!」

 渚が両手を広げて、ブンブンと上下させる。

「いや……メイクもある程度はOKにするって、パパ、コーチも言ってたから……」

「その手には乗らないし!」

 渚が腕を組んで、頬を膨らませ、プイっと横を向く。

「う、う~ん……じゃあ、今日はなんで私と会ってくれたの?」

「そりゃあ、友達とは会うっしょ」

「あ、ああ……」

「ちょうど良いと思ったし」

「ちょうど良い?」

 ショートカット眼鏡が首を傾げる。

「動画の撮影役」

 渚がスマートフォンを指差す。

「ああ……でも、なんで動画?」

「田舎は出逢いが少ないっしょ? 動画がバズれば良い自己紹介になるじゃん。『この娘は誰?』⇒『鳥取市の月代渚つきしろなぎさって娘らしいよ』ってな感じに拡散されてさ」

「個人情報は出さない方が良いって……」

「もち、自分から名前を出すことはしないよ」

「渚……」

 ショートカット眼鏡が渚をじっと見つめる。

「なに? 動画のアイデアも出してくれて結構ノリノリだったじゃん」

「そりゃあ、聞かれたら答えるけど……」

「……ってか、なんで走らせたの?」

「いや、バズる為にね。『鳥取砂丘をギャルが全力疾走!』ってなんだかウケそうじゃない?」

「バズるかな~?」

 渚が立ち上がって、鳥取砂丘を見回しながら首を傾げる。

「得意なことがあるならそれを活かさない手はないよ」

「そういうもんかね」

「そういうもんだよ」

「ふ~ん……」

「じゃあ、もう一本走ろうか」

「いやいや……」

 渚が両手を腰につける。

「疲れちゃった?」

「それもあるけど……」

「あるけど?」

「なんつーか……マンネリ?」

「マンネリ?」

「他になにかないかな?」

「ふっ……」

 ショートカット眼鏡がニヤリと笑う。渚が戸惑う。

「な、なに?」

「ちょうどおススメしたいのがあったの」

「ええ?」

「じゃあ……」

「……えっと……」

 渚が右頬をポリポリと掻く。離れた距離で地面にうつ伏せになったショートカット眼鏡がスマートフォンを構えている。

「せーのでスタートしてね!」

「う、う~ん?」

「せーの!」

「!!」

 ショートカット眼鏡の掛け声に応じ、渚が走り出す。その先にショートカット眼鏡がいる。

「良いよ!」

「……っていうかさ!」

「なに?」

「こ、ここで飛んだら見えちゃうんじゃないの!?」

「見えても良いの穿いているんでしょ?」

「そ、そうだけど……! 絵面だけでもバンされるんじゃ……!」

「飛んじゃえば良いじゃん!」

「良いじゃん!って……」

「加速はバッチリ! はい、踏み切って!」

「! ええい!」

「!!!」

 渚が踏み切って、地面から勢いよく飛ぶ。ショートカット眼鏡を悠々と飛び越えて、両脚で着地し、尻餅をつく。

「ぎゃん!」

「………」

 ショートカット眼鏡がうつむいている。

「ど、どうしたの?」

 渚が恐る恐る尋ねる。

「凄い跳躍だったよ! カメラで追えなかった!」

 ショートカット眼鏡がパッと顔を上げる。

「そ、そう……」

「うん!」

「……って、また撮れなかったんじゃん!」

 渚が地団駄を踏みながら、ショートカット眼鏡に近づく。

「動画がバズるよりもモテる方法があるよ!」

 ショートカット眼鏡がバッと立ち上がる。

「お、おおっ……?」

「へプタスロンだよ!」

「ヘ、へプタスロン?」

「七種競技のこと! 走るだけじゃなく、飛んだり投げたりするの! その競技を制した者は『クイーンオブアスリート』って称賛されるんだよ!」

「ク、クイーン?」

「そう!」

「……悪くないかも」

 渚が顎に手を添える。

「お、興味持った感じ?」

「ちょっと詳しく聞かせて……」

 渚がお尻についた砂をパンパンと払う。

「計算通り……」

 ショートカット眼鏡がニヤリと笑って呟く。レンズがキラリと光る。



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