第5章 森の奥での出会い
森の奥はさらに暗く、湿気が重い。
少女の足音だけが静かに響く。
木漏れ日はほとんど届かず、光は細い筋となって地面に落ちる。
視界の端に、わずかな揺れ。
影ではない。何か形を持ったものが、木々の間に潜むように見えた。
少女は立ち止まる。
呼吸は整え、ただその形を見つめる。
その存在は、明確な輪郭を持つわけではない。
でも、確かにそこにある。
風が通り、葉がざわめく。
それと同時に、森の奥からかすかな匂い。
湿った土と混じる、何か異質な匂い。
少女の足は自然に止まり、視線は形の方向に向いたままになる。
形は微かに揺れ、森の影と溶け合う。
手を伸ばせば触れられそうだが、触れてはいけないと本能が告げる。
少女はただ、そこに存在することを確認するだけだった。
一度、形は微かに動き、消えた。
だが、森に残る空気の違和感は消えない。
少女は歩みを再開する。
目に映るもの、鼻に届く匂い、森の重みすべてが、今日初めての“異物”の証だった。
森は静かに、しかし確実に、少女の感覚に印を刻む。
足を進めるたび、呼吸と視線はその印を追う。
何が待っているのかはまだわからない。
ただ、森の奥にあるものは、確かにそこにあった。
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