第2章 火のそば
火はすでに起こされていた。
乾いた枝が組まれ、煙は低く流れる。強く燃やす必要はない。熱は足りていればいい。
肉は分けられていく。
大きさは揃えられない。形も違う。
それぞれが、黙って受け取る。
少女は列の後ろに立ち、順番が来るのを待った。
視線は下げたまま。誰が何を持ったかを確かめる必要はなかった。
渡されたのは、骨の少ない部位だった。
布に包まれ、まだ温かい。
少女はそれを受け取り、火のそばに腰を下ろす。
焼ける音がする。
脂が落ち、火が小さく跳ねる。
匂いが立ち上がり、森の湿った空気に混じる。
誰も言葉を発しない。
噛む音と、薪のはぜる音だけが続く。
食べる速さは人それぞれだった。
早く終える者もいれば、時間をかける者もいる。
少女は急がない。焦げる前に返し、火から少し離す。それだけだ。
骨は脇にまとめられる。
残ったものは、後で川に流される。
その流れも、決まっている。
腹が満ちると、手が止まる。
それ以上は取らない。足りなくても、足りていても同じだった。
火は最後まで使い切られない。
薪が崩れ、熱が落ちていくのを待つ。
食事が終わると、人は自然に散っていく。
片付けをする者、見張りに回る者、何もせず座る者。
少女は布を畳み、立ち上がった。
指先にはまだ脂が残っている。川へ向かい、軽く洗い流す。
水は冷たい。
それでも、さっきほどではなかった。
村に戻ると、もう火は小さくなっていた。
煙だけが細く残り、空に溶けていく。
今日も、食べた。
それだけのことだった。
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