第2話 次の駅、どこ行く?

冬の夕暮れ、歩道に立つ二人の周りを、通勤帰りの人々が足早に通り過ぎる。街灯の光がアスファルトに反射し、冷たい風が頬をかすめた。


「なあ、次はどこ行こうか?」

西木田はリュックを肩にかけたまま、空を見上げるように言った。


「次って……計画立てるなら、ちゃんと宿も調べてからじゃない?」

志摩はスマートフォンを片手に画面をスクロールしながら応えた。


「それだと面白くないだろ。行き当たりばったりの旅がいいんだよ。昨日の夜、なんとなく思いついたんだ、明日フェリーに乗って島に行くって」


「……明日って、明日だよね。宿は? 交通手段は? 食事は?」

志摩の声はいつもより少し低く、現実の壁を突きつけるようだった。


「宿なんて着いてから決めればいいし、食事も屋台やカフェで探すんだ。計画ばかりじゃ、冒険感がないだろ?」


志摩は目を細めてスマホを見つめたまま、言葉を選んでいる。

「でも、突然だと……料金が高くなることもあるし、無駄に歩き回ることになるかも」


「それも旅の醍醐味だよ。道に迷うのも、知らない街角に出会うのも。ほら、あの前回の列車の旅みたいに」


志摩はふと目を上げた。前回の旅では、地図を見ずに歩き回り、夜遅くに駅で野宿したことを思い出す。

「……あれは確かに、面白かったけど、風邪ひきそうになったじゃない」


「それも含めての思い出だよ。笑い話に変わる瞬間が、旅の醍醐味だって」

西木田は手を広げ、夕陽に照らされるビルの輪郭を指さす。


そのとき、歩道で小さなハプニングが起きた。

西木田が前を見ずに歩いていたため、犬の糞を踏んでしまう。ぬるっとした感触に足を止め、顔をしかめる。

「うわっ……!」


志摩はその反応に一瞬笑いそうになったが、向こうの通りを車が通り過ぎ、跳ねた水たまりの水が彼女の靴とコートにかかった。

「ちょっ……! 最悪!」

西木田も慌てて後ろを振り返る。二人のタイミングが偶然にして最悪だった。


「……ほら、やっぱり計画も必要かもな」

志摩は濡れた靴を見ながら小さくため息をついた。


「う、うん……でも、このハプニングも旅の一部ってことで」

西木田はぬるっとした靴を見つめ、苦笑する。


「だから、今回はちょっとだけ計画してみよう。最低限の宿と交通だけ決めて、あとは自由にしてみるとか」


西木田は首をかしげ、にやりと笑った。

「それなら、俺も乗るよ。半分自由、半分計画って感じか」


「うん、それなら妥協点かも」

志摩の声には、ほんの少しだけ笑みが混ざっていた。


通りを走る車の音と、遠くで鳴る踏切の警報が混ざる中、二人は歩道をゆっくり進む。

冷たい風の中で、次の旅の話が静かに膨らんでいった。

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