憧れのあの人みたいに

「どう?」

「え、めっちゃ似合う」


 シャッ、シャッとカーテンの開け閉めを繰り返して、花奈達がファッションショーをしている。

 平日で空いているショッピングモールの試着室は、気がつけば陽キャ女子達のショー会場になっていた。

 私なんかじゃ絶対に似合わないような洋服達。

 普段テキトーにパーカーとジーンズのコーナーだけをみてテキトーに買っていく私だけれど、今いるのはほとんど来たことがないコーナーだ。

 肩出しやら、ミニスカートやら、ワンピースやら、オシャレなニットやら。

 秋だってのに、どうしてマネキンが来ているのはみんな丈が短いんだろう。

 対する私はカフェでメイクをしてもらって、いつもよりも少し、陽キャ女子高生の顔をしている。


「うーん、くるみちゃん、あんまり興味ない感じ?」

「じゃあじゃあ!こっちは?」


 佐野さんは、目の前の別のお店のマネキンを指で指した。

 ひらひらふりふりの、ドレスみたいな洋服。

 花奈曰く、学生にも優しい(お財布的な意味で)ロリィタを専門にしたお店らしい。

 何も知らない私に佐野さんが説明してくれたことによると、ロリィタとは「可愛い」を追求した洋服のことだとか。

 私には遠い世界だ。


「ね!くるみちゃんはどんなのがいい?」

「私はいいよ……」

「よくないって!」


 周りは、三百六十度ふわふわひらひらな洋服。

 そして、陽キャ女子。

 陰キャな私が、勝てるはずもなく――


「めっちゃ可愛い!」

「イメージなかったけど、有りよりのアリだね!」

「次、黒も着てみる?かっこいい系も似合うと思うんだよね!それとも思い切って甘い系?」


 甘ロリ、ゴスロリ、パニエにリボン、サテン、ボンネット……

 全部が呪文に聞こえる。

 遠い目をして、周りを見まわした時。

 ふと、一体のマネキンが目に留まった。


「それ、気になるの?」

「佐野さん」


 彼女は、私の視線を追ってショーウィンドウの方を向く。

 編み上げのブーツと、黒いミニスカートにコルセット風のベルト、肩出しのピンクのブラウス。

 マネキンが着こなしているのは――


「地雷系?なんか意外」

「なんか、強くてカッコいいイメージがあって」


 会うたびに、ギラギラなピアスと、こんなふうなカッコいい服を着てカメラを覗く従姉妹を見ることが好きだった。

「だった」というか、今も好きだけれど。

 ずっと陰キャから変わらない私とは違って、従姉妹のお姉ちゃんは自分の「好き」を貫いて、いつも楽しそうに笑っている。

 あんな風に慣れたらいいな。

 あんな風だったら、毎日楽しいのかな。

 そんな風に思えるけれど、自分にそんな資格があるのかはよくわからないまま、ひたすら勉強に逃げている気がする。


「ずっとずっと憧れてる人がね、こんな服着てるの。可愛くて、カッコよくて、いっつもキラキラしてて」


 私は一人で、一体何を言ってるんだか。

 勝手に憧れて、勝手に感傷に浸って、勝手に自分に諦めて。

 そんな、勝手な感情を、自己完結できずに気取って話す。

 バカみたいだ。

 向こうは、ぼっちの私を気遣って輪に入れてくれてるだけなのに。

 優しくて面倒見の良い花奈の友達だから。佐野さんも青山さんも、優しいから。


「くるみちゃん、楽しそう。いっそのこと……着ちゃう?」

「――へ?」


 いつのまにか、満面の笑みの花奈達が背後に立って、こちらにじりじりと歩み寄ってくる。

 後ずさろうとも、時すでに遅し。

 私の後ろは、マネキンその一、そのニ、その三。


「レッツゴー!試着!」

「ちょっと待って!心の準備が!」


 ああああ〜という、私の声は虚しく試着室に吸い込まれていった。

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