腕のない合体ロボットと100年前の約束②

 古い映像を流す映写機は、今日も不満そうな音を立てて回っていた。歯車がカチャカチャする音が気にならない程度にはあーしは飽き始めていたのだ。

 何にかって?


「……まだやんの、これ」


 あーしは座布団を使わずに床に座り込み、棚に背中を預けたまま、壁の白黒映像を眺めていた。

 何かてかがりになる物はないの? とかあーしが適当な事を言ったものだから、久遠のだんなが嬉々として持ってきた“蒸気戦隊コールファイブ“の映像フィルム。

 だんなが「資料になる」とか言い張って、第一話からずっと流している。


 本日は店は休み、しかしあーしの仕事はこれを見る事。

 正直、苦行の一言である。


 この蒸気戦隊コールファイブというのは色分けされた五人の戦士(何故か桃色だけ女子、男女比率がおかしい)が世を乱そうとする悪を退治する物語らしい。悪も悪で行動理念が一定じゃないことと、わざわざコールファイブを倒そうと正々堂々と悪行を繰り返すわけで、こんな悪が蔓延れるわけがない。


 コールファイブ側も代わり映えのしない名乗りをしては敵の術中にすぐはまるが大体大逆転。

 今流れている話でもオーバースチーム将軍が現れては、巨大化した敵が派手にやられている。

 それにしてもオーバースチーム将軍、今だとアウトなくらいに敵をめったうちにする。背中に背負った巨大な蒸気機関から黄金の蒸気を放ち、敵が2体だろうと3体だろうと圧倒的な力でねじ伏せる。

 逃げようとした悪役を追いかけ回して叩きのめし、最後は悪を爆散させる。

 

「名前も見た目も、どう考えても悪役じゃんね?」


 近所の焼き菓子屋で売ってたふな焼きをあーしは袋から出してもそもそと食べる。めっちゃくちゃ美味い。最近の若者は中心街で売られている“くれぇぷ“とかいうハイカラなお菓子が流行っているらしいけど、一つでふな焼き五個分もするからな。食べれる日は夢のまた夢なのだ。

 久遠のだんなの目を盗んで梅酒でも飲もうかと思いながら画面に目を戻した、そのときだった。


――最終回の一回前


「おいおいおい! オーバースチーム将軍、嘘でしょ!」

 

 あーしは目頭が熱くなっていた。今までイジメかよってくらい敵をボコボコにしていたオーバースチーム将軍が敵首魁に手も足も出ない。今までは爆散させていた敵の仕返しを受けたかのように最終回の一話前でそのオーバースチーム将軍が爆散し、そして倒れた。

 

 そして流れるテロップ“最終回 さらばコール・ファイブ“

 

「ふぅ……」

 

 あーしは一旦そこで映写機を止めた。お腹が一杯なのはふな焼きを食べすぎたからではないと思う。昔の映像作品の単調さと異様なまでの話数に疲れたのもある。一話一話ではつまらないと思っていたのに気がつけば魅入っているあーしがいた。

 演技が上手なわけでも、整合性がとれたストーリーというわけでもないのに、いつしかダサいと思っていたオーバースチーム将軍とコールファイブのファンになってたわけだ。

 

 それ故にオーバースチーム将軍、そしてコールファイブ達がコテンパンにやられている展開の先を見るのに少しばかり覚悟が必要だった。

 

「なるほど、これか。当時の男の子の気持ちの片鱗というやつっすか」

 

 胸の奥が、変なふうにざわついた。単調でいいのだ。かっこよく、圧倒的に強ければいいのだ。それが当時のトレンドってやつだったんでしょう。

 さて、心の準備を決めてと映写機のスイッチに手を伸ばしたそのとき、帳場の奥でパサりと紙を閉じる音がした。


「久遠のだんな?」


 オーバースチーム将軍を売りにきた人のことが何か分かったらしい。

 だんなは、書類から顔を上げずに言った。


「売買履歴、辿れた」

「凄いじゃん。あーしが来る前からあるよね」


 マジか……


 だんなはきっちりした性格だからそういう書面は全部残ってるんだろうけど、それをこんな短時間で調べるとは恐れ入った。


「このロボットを売った人物の関係者だ。……まだ、この街近くに住んでる」

「会えんの?」

「あぁ約束は、取り付けられそうだ」


 あーしは、映写機を振り返った。続きを見ようか、残り一話だし、それを再生してだんなとそれを眺めているとあーしはある事に気づいた。少しばかり当時の少年の気持ちを理解できたからなのかもしれないけど……


「久遠のだんな」

「なんだ?」

「……これさ」


 自分でも驚くくらい、落ち着いて言った。


「お客さんのお爺さんとその友達の答えってこの最終話なんじゃないですかね?」


 だんなは、少しだけ間を置いた。


「腕を持ち込まれた時からその可能性は高いと思ってた。二人の関係がどうだったのかまでは分からないがな」

 

 それだけだった。


 あーしは、棚の上のロボットを見上げる。

 欠けていた腕は、今揃おうとしている。


――最終話を見ると欠損している今の状態が完成品のようで。

お客さんが納得するかどうか、そこはあーしの役目かもしれないけど。


「いつ会うんすか?」

「明日の午後、駅前の喫茶店だ」

 

 珈琲にビスケットくらいは食べれそうだなとあーしは邪な考えを見抜かれたように久遠のだんなに軽蔑された目を向けられる。

 あーしは頭をかきながら笑っていると、久遠のだんながこう言った。

 

「久結姫、梅酒でも飲むか?」

「へい、ご相伴に」

「調子のいい奴め」

 

 母屋に入ると久遠のだんな今年漬けた梅酒ではなく、少し熟成が進んだものを入れてくれた。香りがきつい、最高だ。

 あーしは興奮すると瞳の赤みが強くなる。


 ここで一句。

 

「吸血鬼、梅酒に微睡む、残夜かな」

「全然うまくないぞ」

「いいんすよ。梅酒は美味いんで」

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