第4話 人間である事の証明は、この場においては何もしないことだ

ダンッ と乱雑に拳を机に叩きつける音が響く、酒は、入っていない様だ。


「落ち着け、あいつに目を付けられた以上、俺たちには暫く大人しくする、という選択肢しか残されていない」


と、そう答える眼鏡をかけた30代程度に見える男は煙草をゆっくりと吸いながら遠くを見つめている。スーツを着込み好印象を受けるが、寂れたバーで飲むにはやや場にそぐわない。有り体に言ってしまえば場に馴染めてはいない。


「お前は、いつもそうだよなぁ、なんだ?正直に言いやがれよこのインテリ野郎、お前は、あいつが殺されたってのに何も感じねぇのかよ、なんとか言えってんだよ!」


とそう声を荒げる男は先ほどの男を対比した様に大柄で整ってはいない出立ちだが、中世の海賊などをモデルにした作品を見た事がある人間であれば、こちらの方がバーの雰囲気にあっている、と感じる事だろう。


「確かに、あの何の生産性も無くただ資源を浪費し続ける無能共は心の底から根絶に値するとは思っているが、それがお前達と同じように仲間意識を育むとは一言も言っていないだろう、とどのつまりは今の我々には”アレ”の監視を超えて奴らを襲撃する手立てなどない、アレが遠方にでも行く事があれば話は別だが...それよりも、前回の接触で如何にアレを正面から相手するかが非効率的であるかなど理解しただろう?」


前回の屈辱を思い出したその男の口調がさらに攻撃味を増す


「あいつは、一体何なんだ?何の能力を持ってるってぇんだ?政府高官であるお前だったら何かしってんじゃねぇのか?」


「知らん、考えうる全てのデータベースにアクセスしてみたが、奴の能力は不明だ。」


「けっ、言っても大した事ねぇなぁ?お得意の不死を活かした総当たりはしなかったのかよ?」


「あぁ、一回だけ試した事がある」


「そうだろうな、テメェならあいつに刃物を向けた程度で裁かれはしねぇだろ?何より死罪にしようにもできねぇんだ、だったら重要な情報を可能な限り入れとく都合の良い記録媒体として使った方が良いってのは理解できる、だから連中もテメェにならあいつの能力を晒してるもんだと思ってたが」


「話は最後まで聞け、結論から言えば、全くわからんかった」


「はぁ!?何なんだよそれはよぉ、ふざけんのも大概に」


「どういった理屈かは知らんが、俺が奇襲を仕掛けようとする時には既に別の場所に移動していたり、ともかく全ての攻撃は試すまも無く失敗に終わった」


「だったら未来予知とかそうゆうのじゃねぇのか?」


「いや、だとすればお前を片腕で止めたパワーも、お前の能力が効かなかった理由も説明がつかん、何より未来予知形の能力者は別に存在している」


「あ〜、だったら、そいつに協力してもらって事前に俺の攻撃を無力化する手段を用意してあそこで待ち構えてたとかはどうだ?」


「だとすれば、事前にお前を止めれば良い話だろう?わからん事を喋っても時間の無駄だ、何より今回把握すべき事は”どこぞの馬鹿が先走って組織全体に迷惑を掛けた”それだけで十分だろう?」


「チッ」


「とはいえ、実際バクトが無能力者に殺されたのは明らかで、それは十分あの無能共の殲滅の口実になりうる。しかし状況証拠はあの防弾着の奴らはただの突発的な小規模グループの戦闘で、バックにブラックステンレス社がいた形跡は無し、その上バクトに残っていた眉間を貫いた弾痕は明確にあの襲撃犯の内の一人が付けたものである、とシュミレーション結果は示している。その上最後の力を振り絞ったのかはわからんが、襲撃犯と全員相打ち、逃走者の形跡は無し、とのことだ」


「んな事が、んな事が本気でありえると思ってんのかよ!?」


「いや、無いな、お前らほどバクトに心酔している気持ちは一切無いが、正直アイツがあの程度の、突入の仕方もまるでわかっていない雑兵にやられるとはとても思えん」


「じゃぁ、一体何なんだよ、なんだってんだよ!?」


今にも掴みかかってきそうなそいつを手で制すと


「まぁ十中八九ブラックステンレスの奴らがバックにいただろうな」


「だからそう言っ」


「そうして殺したのは奴らの中には居ない、多分精鋭か何かが代わりにやったんだろう、しかしその場合、遠距離からの狙撃の線はないだろうな、使用された弾丸はやや不自然な形状であるとはいえ近から中距離を想定したものであったし、その上何より弾道が水平すぎる。仮にビルからの狙撃であった場合、侵入角の影響で弾道は下気味になるだろう。しかしバクトの遺体にあったのは正面から撃たれて死んだ、という事実を肯定する証拠だけだ。」


「何が言いてぇ?」


「俺の知識内に、証拠も残さず侵入して、その上バクトと正面から打ち合って無傷で離脱できる人間を知っている」 勿論、多少のお膳立ては必要だろうがな、と付け加えつつ


「だったら!」


「あぁそうだ、お前の復讐に取り憑かれたお仲間達を扇動できるだけの情報は有る、しかし、あの赤羽が俺たちを警戒している限りは先ず成功しない、だから、今は期を待て、と言っているんだ」


そうして、何とかこの思慮のかけらもない馬鹿を制御することには成功した。おつむは残念の一言だが、それでも仲間からの信頼とその戦闘力は確かなものだ。事実上の最高戦力として近場に置いておくに越した事はない。


「では続いてのニュースです、先日海開きが正式に発表され」


毎日のくだらんニュースだ。どうせ3日後には空き始めるだろうにそんな事も考えられない低脳共がお互いを押しのけながらビーチにごった返している。見る価値のないニュースだが、それでも他の番組よりはましだ。そう思い何気なく続けていると


「そうして安心安全な遊び方を講習していただく為に赤羽勝奇さんにきていただきました〜、本日はよろしくお願いします。」


俺が次の行動に移るより早く、電話が鳴り響く


「あぁ、俺だ、なんだお前か」


普段は愚鈍の極みの癖にこういった時だけ行動が早いやつだ。まぁ要件は言わなくてもわかっている。しかしそいつは興奮気味に


「なぁなぁ、赤羽丁度正反対の方へ行ったぜ!さっさとやっちまおうぜ!」


「待て、まだどの程度かの期間が」


「そして赤羽さんには、一週間ほどの滞在を予定していただいています、いや〜お忙しい中ですのにありがとうございます!」


「なぁ聞いたか!」


「あぁ、ちゃんと聞いた、そんなに大声で叫ぶな、やかましい」


しかしそんな返事をこいつは聞いちゃいない。ほうっておくと今からでも襲撃しに行きそうだったから、最後の理性を振り絞らせて夜での決行だけを約束させる。


はぁ、こういう時だけは無気力で扱いやすいあの無能共を従えているあの企業が羨ましくもなる。だが、それも今夜で終わりだろう。今夜、今夜であの社会の純然たる癌である奴らは消されるのだ。


夜12時頃 大型バン内にて


「俺たちを救ってくれたのは誰だぁ!」


「「「バクト、バクト、バクト、バクト!」」」


「人を殺す事ぐらいしかできねぇ能力に、活用の場を与えてくれたのは誰だぁ!」


「「「バクト、バクト、バクト、バクト!」」」


さっきから行われているこの知性のカケラも感じさせないやりとりだが、全体の士気を高め、脳内アドレナリンで冷静な判断力を失わせ戦力の底上げをはかる、所謂ウォークライというやつだろうか?何にせよ、うるさい事この上ない


内容を簡潔にまとめるとバクトは簡単に人を殺せる能力を持ちながらもそれらを決して庶民には振るわず、治安維持にのみ使ってきた。それが一種のモデルケースとなり同じような危険な能力を持つ奴らがバクトの元に集まり信頼を勝ち取り、今では立派な治安維持部隊となった。


しかしそんな中バクトは謎の武装集団からの襲撃に会い死亡、多勢に無勢ながらも襲撃犯を自らの命と引き換えに道連れにし、治安を守った。


大まかにはこんなストーリーが奴らの中で流行ってはいるが、検証が不十分で有るとか、言って仕舞えば色々ないちゃもんを付けバクトを慕っていた奴ら、とりわけ無能力者保護に回しているリソースを能力者に回せ、という主張に感銘を受けていた連中が今こうして立ち上がっている。というわけだ。


正直こんな事をしている暇が有るなら少しでも作戦を詰めろ、と言いたいが下手に行動を縛るよりもこいつらの好きに暴れさせた方が良さそうだ。何より、俺は俺でやりたいことが有るためこいつらとは一旦はここでお別れなわけだが。


「行くぞお!」


「「「「ウオォぉぉ!」」」


とようやく終わったか、やれやれ騒がしい連中だと思いつつも、ブラックステンレス社のふもとにたどりついた。データによれば無能力者視点ではかなり頑丈なセキュリティがしかれているらしいが、所詮無能共のない知恵を絞った足掻きに過ぎん、門や扉などは次々に破壊されたり消しとばされたりしていく、気が付けばもう大分内部に浸透したようだ。このまま適当に重要箇所を破壊して無能共から土地を消毒してゲームセットかと思ったが。


パシュ、パシュ、とやや気の抜けた、しかし知識の有るものには分かる極めて合理化された。無能共が発しうるおおよそ最強の死の音が鳴り響いていた。


横目で確認すれば何人かは倒れた事が確認出来る、このままだと結構な人数が削られるだろうが、俺がこの施設に侵入出来た時点で既に勝敗は決している


「そのまませいぜい時間を稼いでくれよ?」


といいその廊下を掛けていく、時折足などに被弾するがすぐに塞がり始める。この程度の事で俺を止めることなど出来ない、なぜなら、俺は”無敵”であるから


同時ブラステ社オペレーション室


「いやぁー、思ったより来たっすね?」


「まぁ、可哀想な奴らだよ」


さっきからずっとこの調子である、能力者の事を”可哀想”や”哀れ”と本気も眼差しで述べている


いつだったか思い出す。初めて対能力者を想定した戦闘訓練を受けた時


「これ、何か分かる?」


「???蜂、っすよね?」


「そう、これを、ポーイ」


といいながら、蜂を虫籠からほうり出す。ただのミツバチならまだ良かっただろう、ただそれはよりによってオオスズメバチだ。名実共に最強最悪の蜂、2度刺されたらアナフィラキシーショックで死ぬ事でも有名で、天敵を見かけたら逃げずに攻撃するとかいう意味不明な凶暴性でも知られている。


そして当然のごとくこちらに突進してきて、当然大混乱になる


「う、うわあ、ば、馬鹿じゃねぇの!?何考えてんだあいつ!」


「そ、それより早くとって、誰か早く捕まえて!」


と文字通りの阿鼻叫喚で有る。全くもって意味不明だ。


「…そろそろ良いかな?捕まえて」


と当たり前の様に隣の女性にそう指示を出す奇人、今の社長だが、その指示に女性は


「はい」


とだけ短く答えると、そのまま人間を追いかけ回すスズメバチに近寄り、その真っ白で傷一つない綺麗な腕で、完璧に掘り出された彫刻の様な手のひらで、その蜂を握りこんだ。


羽を綺麗に摘むとかそうゆうのではない、文字通り握り閉めた。


当然握り殺すでもなくそんな事をしてしまえば


「ヴヴヴヴヴンヴヴヴヴヴン」


と耳をつんざくような最後の生命の躍動を嫌でも感じさせる足掻きを行う、当然その強靭な顎で噛みつかれたり、何度も毒針を刺されたりなど、その激痛は計り知れない


実際、そのまま歩いて虫籠に放り込んだ後に、少しだけ手のひらが見えたが、所々皮が剥がれ、肉は露出し、全体的に血に濡れていた。


直ぐに丁寧な処置が施され、傷一つなくなっていたが、事前に完璧な処置を施してもらえるとわかっていても絶対にやりたくない。


「さ〜て、じゃぁ聞くけど、みんなはどうして能力者より怖くないはずのオオスズメバチにあれだけあわてふためいていたのかな?個人的にはみんなが冷静に対処出来ていた火炎放射器を持った人間の方が怖いと思うよ?」


と先ほどの惨状を見ても声色一つ変えない男を見て、背筋が凍りついた。蜂を素手で包んで持って来いという命令をなんの疑問を持たず行う方もイカれているが、それを出して大丈夫と思っている方がイカれている。しかもあの迅速な対応を見るにかなり厚遇されているのだろう、そんなこんなでその質問にまともに返せるやつなどいなかった。


「そうだ、相手がゴミムシだからだ」


何を言っているんだこいつは、という気分になったが、気づけば先ほどまでのやや高めの声色ではなく、威圧感のある声調に変わっていた、


「人間には、損得感情がある。例えば、そうだな、武器を持った”人間”ならば、自分の命を犠牲にしてでも止める価値はあると思っている。しかし、しかしただその辺にいるだけの”虫”に対しては、人間は一時の苦痛を我慢してでも立ち向かおうとは思わない、一時の視覚的な不快感ですら我慢出来ない」


それはさっきの一連の出来事で理解出来た、それが何だというのだ


「じゃぁ能力者にとって私たちは命を掛けてでも倒すべき”人間”か?」


疑問が深まる、それはそうだろうと言い掛けた途端に


「いいや、違う、あいつらにとって、私たちは、ゴミムシ同然だ、あいつらは腕を震えば逃げ惑い、足を降ろせば潰れていく、そんなゴミムシにすぎない、一時の不快感すら我慢出来ない、いうまでもなく自身の命など到底天秤に掛けれはしない」


「能力者は、私たち無能力者の様に、日々を流されるままに生きていない、日々を誰かの記憶にも残れぬ様になど生きてはいない。我々は、奴らの特別性をいつまでも、どこまでも保全している。我々が存在するだけで奴らは自分の人生に活力、希望を見出し精力的に生きる。だってそうだろう?自分は特別何だから、あんな取るにたらない無能共とは違い世界で一つしかない唯一の守るべき命だから」


「ここまでくれば君たちも理解出来ただろう?そうだ、対能力者の基本は”常”に相手の生命を脅かし続けろ、別に致命傷にならなくてもいい、あの蜂の様に、ただ機械的に目の前の障害に対して反撃し続けろ」


「能力者とは、哀れな弱者である。だってそうだろう?コミュニケーションが得意なやつに洗脳能力使いは居ない、居たとしても殆ど使わない、なぜなら人を操ることなど相手との信用を築けば良いだけだからだ。仮にその信用が洗脳能力によってもたらされたものだとばれた時のリスクの方が高いからだ。能力者とは、可哀想な生き物である、人生とは元来自らの進みたい道に応じて自らの望む力を伸ばしていくものなのに、能力者はそれが最初から決められている、あまつさえそれに依存し、自らのあり方そのものを変質させる事を美徳としなければならない世の中だ、心のそこから同情するよ」


….


とか何とか言ってた気がする、それを象徴するように四方八方から断続的に飛来する弾丸は能力者達の命を着実に、確実に減らしている。今も耐えている能力者はこないだ襲撃してきた触れたものを消すとか言っていたやつか、爆発の衝撃を消したり時折超高速で跳ねている当たり、前回空から降ってきたのは足元の重力を決して飛来、そのまま着地と同時に地面と衝撃を消した感じだろうか?まぁそれも時間の問題だろう、今能力者と相対している精鋭部隊は仮に片足が吹っ飛ぼうとも変わらず戦闘を無言で継続し続ける正真正銘の人外達だ。マジで怖いこの人達


今それよりも気にすべきなのは


「うーわ、スッゲェ真っ直ぐこっち来てるっすよ?」


「はぁ、じゃぁお出迎えと行こうか」


と気だるげな返事を返しながらバッグから装備を拾い担ぐ。仮にこれからの自分の姿を客観視したら怖いという感想が出るのだろうか?いや、多分出ないな。だって予想通りの事を予定通りにこなす事に何の強さも感じないだろうから。


….


「はぁ、はぁ」息が切れる、口の端からうっすらと鉄の匂いが漂う、しかし、しかしだ、この廊下の突き当たりを曲がればもうすぐ管理室に


と明確なゴールへの一本道を辿っていた時、それは起こる


よく創作物ではボカン、などと表現される、が実際は違う、実際はもっと、事前の余白もなく、衝撃波と瓦礫の狂乱が奏でる調律はもっとシンプルで、洗練されていて、人の本能に警戒を促す間も無く起こる


「「ガァァァァン」」という、コンクリートの壁に乗用車を最大速で突っ込ませたような純粋な破壊の音が鳴り響くのだ


その余波で映画の様に体が吹き飛ぶ、なんて事にはならない。人間の体というのは人体が吹き飛ぶ様な強風に耐えられないのだ、となれば訪れる結果は自然


「ゴポェ」という情けない音と共に上半身と下半身が切断される事だった


しかし死なない、すぐに再生を始める、それが俺の能力だから、自分でも何をすれば死ぬのかはわからない、この間消滅の能力者に血の一滴を残して全て消し飛ばさせたが、何事もなかったように復活したらしい。まぁそんな事は今はどうでもいい、大事なのは俺が管理室まで辿り着く、という事だけだ。そこに行けばこの施設にある地下核融合発電所を暴走させ、ここら一体を消し飛ばす事が出来る。そうなればこの世界から晴れて癌が取り除かれ、完璧な世界がスタートするのだ。


 だというのに、こいつらは、俺が死なないとわかっていながらも断続的に通路を爆発させている。その間も継続的に後退しながら色々と撃って来ている。おおよそ爆発によって狭まった行動範囲で滅多撃ちにしているつもりだろうが、知った事ではない、なぜなら結局それらでは俺を殺せないから。


 その間にも、ゆっくりと、確実に、目的地に迫っている。時折注射針の様なものが発射されて毒物だろうものが流れ始めるが、それも効かない。適当に患部を抉って再生すればいいし、そもそもの毒の効きも、少し苦痛がもたらされる程度だ。


そうしているうちに、ようやく俺を攻撃している奴らの顔が拝める所まで来た。二人ともデータで見たことがある面だ。一人は社長、名前が出てこなかったのは気になるが、奇怪なマスクを被っているからわかりやすい。もう一人はゲンタとかいうやつだったか。やや小柄で髪や目の色は染めているのかは知らないが青や黒と代わり、疲労からか常に目の下にクマがあり気だるげな表情だがそれを取っ払って見るとやや童顔で整った顔立ち、17歳程度の印象を受ける、常にヘアバンドの上にゴーグルを掛けておりその重厚さから色々な機能がある事が想定される。とそんな分析をしていると


「うーわ、もう弾尽きたんすけど」


「私も、サブウェポンとか持ってきてた?」


「いや、普通にこれ一本だけっすけど」


「関係ないけどウェポンと一本ってにてるよね」


「いやんなこと言うてる場合っすか」


などと、ド素人も良い所な漫才にも満たない何かを見せつけられた俺は、見る限り本当にこいつらの装備が今手に持っている銃一本しかない事を確認するとそのまま掴みかかる。身体能力自体はその辺の鍛えてる一般人と大差ないとはいえ、持久戦に持ち込めばそのうちなぶり殺せるだろう。そう思い行動に移すと


「あー、やばい、本当に弾ないんだって、...アサルトライフル用の弾は」


と言いながら手に持っている銃器の先端を少し押し込んで変形させた後、銃口を上向きに突きつけ、そのまま俺の頭を吹き飛ばす。


「やっべ、思った以上にやっちゃった」


「なーにしてんすか、ちゃんと眼球残して前頭葉だけ撃ってくださいよ」


「いや、簡単に言うけどなお前、これ結構難しいんだぞ?まぁそのうち良い感じの調整出来るでしょ」


「はぁ、なるべく弾の無駄遣いはやめてくださいよ」


と言われながらそいつは再生し始めた俺の脳を再度ショットガンで吹き飛ばした


「お?やっぱり倒れてもらってる相手を撃ち下ろす、ってのが一番やりやすいね、」


「まぁこれなら及第点ってトコすかね?じゃぁもう一回練習行ってみますか」


と、再度俺の頭を吹き飛ばす、思考が断続的だ、前頭葉とは思考、運動、言語、眼球運動を司る部分、というのを昔本で読んだ事がある、普通はそうなった場合死ぬのだろうが、俺は死なない、思考が断続的になるし、体はぴくりとも動かないが、その視覚、聴覚に渡る情報は記憶として蓄積されていく、何とも奇妙な気分だ。しかし、この状態が続けば先ほどのようにいずれは弾が尽きるだろう。そうなれば俺の勝ちだ。だからここはゆっくりとその無駄な足掻きを眺めてやろう、とそう思った時


この狂行を敢行している目の前の男ははっきりと、こう言った


「お前に私は、見えているのか?」


そう、笑顔で言い放った。

….


さて、大分射撃も安定してきたし、頃合いだな、と合図を送る前に既に次の行動に移っていた


「ほいこれ、なんの地図かわかります?」


前頭葉の大部分を失った状態でぼんやりとそれをながめていたのに、そこそこ再生し終えるとハッと目を見開きこちらを恨みがましそうに見つめては攻撃しようとする。そこはまぁ撃ち込んで無力化するのだが。記憶を保持する部分は一切傷つけていないため私達の声は記憶出来るのだが、如何せん理解するためには前頭葉で思考しなければならないため、物凄くラグい通話を超至近距離でやっているような感覚で実に面白い。


おっと、そんな事を考えている暇はないか


簡潔に言えばさっき見せた地図はこいつの家族が居る座標に私達の部隊が向かっている。という内容のものだ


「いやぁ、お粗末っすねぇ、短期決戦前提の事前準備にも関わらず形成が不利になると自身の能力を過信して長期戦の構えっすかぁ?敵地のど真ん中でぇ?マジで笑えるんすけどwww」


とかなり煽り散らかしているがこいつの煽りセンスは中々に目を見張るものがあるため任せておこう


「自分だけが時間をかければ有利になるとかww、来世は発酵食品にでもなりたいんすか?wwwそんぐらい指揮官なら考えろよってwww、あ、考える部分吹き飛ばしてたわ、失敬失敬」


などと言っている間に弾が尽きる


「あ、やべ」


「マジっすか?今良いところだったのに?」


….


などと言っていた奴らは弾が尽きるなりそそくさと奥へ移動していた。


…時間がない、早くしないと、あいつらが


正直、あの下で暴れている連中などどうでも良い、ただ、家族だけは、娘だけは


そう思い、あの状況を唯一変えうる手段はあの社長でも、この街そのものでも良いから人質にとって交渉するだけだ。


そう思い、走ろうとすると、体が重い


どうしてだ?体は再生し終わっている、なのに重い、碌に走れない


と体を廊下に持たれかかりながら起こすと、目の端に妙なものが映る


爆破された廊下とその上に散らばるガラスの破片


これは、H2S、所謂 硫化水素、毒ガスだ。空気より重く下に貯まる性質があり、普段は刺激臭がするが、高濃度だと無臭になる性質を持つ


まさかあいつら、これを、俺に長時間吸わせる為に?ガスマスクを付けない事で、あたかも何一つとしてこの廊下に毒物がないように思わせるための行為?その上で簡単には再生出来ないほどに念入りに吸い込ませて、クソ、頭が回らん、今はそんな事どうでも良い、さっさとあいつらを追いかけて、いた


そいつらは無様にも鍵の掛かった扉の前でどの鍵かわからず右往左往している、このまま詰めて、ひねり潰せば勝ちだ、そう思い駆け出した時


「いや〜、癪っすけどやっぱあの毒ガス効いてんすかねぇ?まぁ個人的には最後まで人質チラつかせて焦らせるだけで良かった説を押しますけど」


「あー、確かにお前の煽りっぷりと相手の急よう見てたらそう思えて来たよ、それはそうと、やっぱ苦労して集めた甲斐はあった説を押すよ」


と言いながら何かのボタンをおす、すると、突如床に避け目が生まれ、開く、いや、違う、最初からこの避け目はあった、通常時なら絶対に見落とす事のなかった見え透いた罠、それを今、踏んだのだ


落ちる、落ちる、落ちる、不思議とその冷え切った空気は、常人ならば死を意味させるそれは、今ばかりは心地良かった。なぜならここには、あの耳をつんざくような轟音も、必要最小限で無力化してくる銃弾も、俺の神経を逆撫でするあの二人も、俺の思考を鈍らせるあの忌々しい毒ガスも、何もないからだ。しかし、そんな一時の安息は、文字通り体を焼き尽くすような熱源により終わらせられる。


眩しい、あまりにも眩しい、俺は思わず目をつぶるが、おかしい、目を閉じても瞼を”緑色の光”が貫通して俺にその状況をありありと見せつける。



「おーい、はよ閉めて」


「うい、」


ガシャン、という音を立てて床が閉まる、そして作業用通信機に接続して


「ほーい、おーい、聞こえてる?多分君が求めてた正真正銘の地下核融合炉だよ!これて良かったね!」


再度、俺を苛立たせるあのふざけた声が響く


「おい、待ちやがれ!」


「ん〜命乞い?ごめん流石に私の命が惜しいから助けにはいけないかな?赤羽でも読ん」

「違う、俺は、正直この先どうなるのかは、あ’’、わがら、な、いが、」


「うん、それで?」


「家族にだけは、手を出すんじゃねぇ」


「おお、言い切った、すごいね、辛いだろうに」


「あいつらは、ガンゲイ、ね、ねぇだろ、ゴボっ、ガッ」


「あーうん、そうだね、まぁ良いじゃん仲良く天国行ってたら、気にしない気にしない」


「ゴノ、グゾやろうが」と言い力の限りモニターを殴りつけるが、何一つとして効果がないことなどわかっている


「で、デメェら、ムノウリョグジャのぜいで、な、あいつは、何もしてねぇってのに、テメェらとも語り合えるなんでりぞうかがげでよ!あ、あいつはな、ムノウのゴミ共にも分け隔てなく接してやっでたのに、能力が使えるって妬んで、あいつを、道路に突き飛ばしやがった!それで、あいつは、半身不遂になって、それでも今まで元気に、俺に心配かけまいと頑張ってたのに!悪いのは、悪いのは、俺だろうがァ!アイツを巻き込むんじゃネア’’ァ’’」


とおれのさけびにもほとんどみみをかさず、かえってきたへんじわ


「ほえー、はぁ」


といいそいるがみせてきたのがめんは、もうめがかすんでみえないが、あいつらのぶたいがもういえについた、というひょうきと、ボウハンカメラにはなにもうつってないようすダッタ。


「ご、れ、ハ?」


「あー、初めから人質確保部隊なんか使ってないよ、そんなに人員の余裕ないし、君を焦らせる為のブラフだよ」


そういわれ、どっとカタノチカラがヌケル


「オレハ、ドウナル?」


「...仮に君の能力が不死の場合、その再生後の肉体は何を基準に再生するのか計らせてもらった。仮に最善の状態を基準にしている場合、多分肉体年齢が1歳、もしくは20前後で終わる筈だ、そして、君はまぁ比較的遅めとはいえ明確に年老いてる。これはつまりDNAは劣化しているし、それに添った再生を行っている事が分かる。実際、撃ち込んだ毒物には特段何も影響を受けていなかったが、しれっと撃ち込んでた放射性物質が当たった箇所は、明確に変色していた事だ、非常に確認する為に必要な時間がかかる為かなりのヘッドショットを決めさせてもらったが、まぁそうゆう事だ。これから君は君が再生のより何処としているDNAを徹底的に破壊され、しかし再生は止まらない、多分物言わぬ肉塊の様な姿になる事だろう。そして多分意識は消えている、安心すると良い」


「ソ、ウ、カ」


「んじゃぁ、また会う日まで、おやすみ」

といい通話を切る


そのまま下に降りるが、もう戦闘は片付いており事後作業の段階に移っていた。


そうして私も箒で瓦礫を掃いていると。


「適当にシータさんにでも家に凸らせとけば良かったじゃないっすか、送らせてて映像ではうつらない様にも出来たでしょうし」


「...それ私が答える必要があるか?」


「まぁ、ないっすね、一応の確認っすよ。あんたが能力者だろうが殺人犯だろうがなんだろうが、子供は巻き込めないってのは俺が痛いほどわかってますよ。....」


だからまぁ、子供を利用してアンタが殺されそうになったら、ちゃんと身を守るぐらいはしてくれよ?と思いつつ、酷使した銃と能力者のデータを更新する残業に入る


「対象:遠藤 トウジ」

「能力:消失

対象が手で触れたものを消滅させる能力、消滅させる対象は具体的な物体に限らず、重力、衝撃などやや概念的な存在でもある程度は消す事が出来る


総合評価:c- 効果発動範囲が非常にわかりやすい、明確に高密度の射撃に対する対応策がないため両手で防ぎ切れないほどの面攻撃を行えば容易に対処可能 何より頭が良いとは言えず、直接的な防御、攻撃にのみ能力を使用するため、当たれば即死の能力など我々無能力者からすればいつもと同じ事である


追記:もうめんどいんで無しで」


「対象;恒生 ツカサ」

「能力:再生

おそらくは限界の無い再生、しかし明確な老化兆候が見られるため対処法の確立はしやすいだろう


特に他に言うことは無い、強いて言うなら本人の性格は合理主義に見える感情主義、わかりやすく弱点があるタイプ、まぁ別に頭が悪いわけでは無い為十分に注意すべき


総合評価:B+ 政府の高官と言う立場上非常に情報収集力が優れていると思われる、しかし行動から推測される限り反無能力者主義、おそらく過去にあった娘に起きた事件が原因だと思われる。そのため本人の周りにはあまり有能と言える人材は揃っていない。赤羽勝奇の周りにいる人間を使えるようになればS+にもなりうる、しかし協力の兆候は無し


ん?能力も踏まえろ?いやまぁ撃っても死なないやつなんていつものことですやん?」


あ、そういえばちゃんと新型銃のも書いとかないとな


[対象:s13]

[簡易式電磁弾倉制御装置搭載型可変式銃、あぁもう面倒くさい、要するに今まで弾を打つ時は銃本体が固定してたのを電磁石にやらせる事によって、そういった物理的な制限がなくなってこれ一本で対物ライフル弾だろうがピストル弾だろうが散弾だろうが関係なく打てるってこと、今までだとマルチタスクに対応するために馬鹿ほど重い銃を何本も持ち歩かなきゃいけなかったり、一つの役割しか出来んかったりと色々制限があったがこれが開発された事で弾だけあったら後は勝手に銃が最適な形になってくれるってこと、しかも壊れても組み立てメンテナンス超簡単、マジで傑作機


総合評価?当然S+ ごめん、これは流石に私情入ってた。自分が作ったやつが実践でも動くとすごい嬉しいよね!というのは置いておいて、真面目に評価するならA+っすかね?まぁ銃器の限界に挑戦してる、って感じなんで今後もご贔屓に]


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