第23話 カフェ?俺が先に逃げるぞ!
2013年6月2日 くもり時々晴れ
このごろ、姫木には用もないのにLINEでメッセージを送りつけられる日々だ。俺は基本的に返信しない。
「恋文くん」
それが彼女が俺につけたあだ名だが、別に気にしてもいない。
たぶん、山田に頼んで彼女に恋文を渡させたことへのリベンジだろう。
「おい恋文くん、最近暇か? 親友のひな子がお前の助けが必要なんだ」
返信する気は毛頭ない。
だが彼女は電話をかけてくる。一分間に三通も。
「俺はただの凡人だ。お前のことなんて助けられない」と俺は返信した。
「お前が誰かに指示して恋文を書かせたこと、バラされたくないだろ?」
姫木静はこの手の脅しを使うのにもう慣れっこだ。
「何の指示だ? 何の恋文だ? 俺は知らない」
俺はふて寝を決め込んだ。
「じゃあこの写真、どう思う?」
彼女が送ってきたのはファミレスの店内写真だ。レジで会計する俺の背中が写っており、姫木が隣で大福を買っている姿もはっきりと映っている。
「この写真、寿子に見せたらどうだろうね?」
「分かった。行く。だが寿子を連れて行く」
「ふん、情け深い恋文くん、むかつくわ」
これでやっとやり取りは終わった。
「もう、どうしよっかなあ」
俺は仕方なく寿子に電話をかけ、状況を説明し始めた。
「実はね、この姫木静って子がレスビアンで……俺の助けを求めてきたんだ」
「どうしてレスビアンの人が海鳴くんの助けが必要なの?」
「それは……ちょっと特殊な理由なんだ」
「ふーん、分かった。私は海鳴くんを信じてる」
寿子は深く追及することもなく、すんなりと信じてくれた。
これまでの綿密な報告と言葉巧みな説明が、ついに寿子の信頼の防壁を築き上げたのだ。
「これでヤンデレの危険性も、いくらか解除されたな」
俺は満足げに微笑んだ。
その日の午後、あるカフェの中。
姫木静は親友のひな子を手繰り寄せ、俺たちの向かい側の席に座らせた。
「初めまして。どうぞよろしくお願いします。稲田ひな子と申します」
「こちらはただの凡人で、顔もそこまでイケてない海鳴野くん。それからこちらは、うちの学校の体育会の有名人、青田寿子さん」
姫木静が勝手に紹介を始めた。
「あら、青田さんですか! 久しく仰っておりました! よろしくお願いします!」
稲田ひな子は寿子に手を伸ばし、喜んで握手を交わした。
海鳴野? それ誰?
俺は完全に無視された。
姫木はきっと、俺が落胆する表情を見たかったのだろう。だが俺にはそんな余裕など微塵もない。
「海鳴くんをそんなふうに言うなんて、全くもって失礼極まりないわ! どうしよ、こんな浅はかな人間なんだかしら!」
寿子は瞬時に立ち上がり、誰一人俺を貶めることを許さない態度を見せた。
空気は一瞬にして険悪なものとなった。
姫木静はまずぎこちない笑いを浮かべ、その後に幾分かの恐怖を感じているようだった。
そう、彼女の本能が叫んでいるのだ。寿子は本気で自分の顔を平手打ちするかもしれない、と。
「いいよ寿子。子供の戯言に構う必要なんてないだろ」
俺は彼女の手を引き寄せ、穏やかに諭した。
「海鳴くんがそう言うなら……ふん!」
寿子は渋々席に戻り、姫木静と口喧嘩することをやめた。
ひな子はもう何も言葉が出てこない状態だ。カフェの中は、ものすごい気まずい沈黙が支配していた。
「まずは何か注文しよう。それから、お前たちの用件を話してくれ」
俺は寿子の背中をそっと叩き、彼女の気持ちを落ち着かせてあげた。
「……はい」
四人でコーヒーを四杯、スイーツを四つ注文した。
「では稲田さん、お前の用件を話してくれないか?」
「用件? 有名な方を紹介してくれるって言って、私は来たんですけど……?」
ひな子は親友の姫木に、疑問の目を向けた。
姫木:(´・ω・`)
「実は姫木がひな子のことが好きなんだけど、告白する勇気がないんだよ」
俺はLINEで寿子にそうメッセージを送った。
寿子からはただ、「。」という返信が来た。
姫木はまさか、俺がこんな風に彼女をいじめているなんて想像もしていないだろう。
「さて稲田さん、じゃあ俺が姫木に代わって言うぞ。実は彼女、ずっと前からあなたのことが好きなんだ」
稲田ひな子:Σ(゚д゚lll)
姫木静:(ノ`Д´)ノ
この一言がカフェに響くやいなや、全員が驚愕の表情を浮かべた。
「あの……この方、こんな公の場で何を……!」
隣のテーブルの客たちも、みんな顔を上げて呆然としている。
ひな子の顔はあっという間に真っ赤に染まり、気まずそうに姫木静の袖口を引っ張った。
「しずちゃん……こんなことを……ごめんなさい! 私たちは付き合えません!」
稲田ひな子はまだこの気持ちを整理しきれていないらしく、会計もせずに慌ててカフェから飛び出してしまった。
もし怒りメーターがあるなら、姫木のそれはもう限界まで満タンになっているだろう。
俺は満足げに微笑み、寿子と二人でスイーツも食べずに会計を済ませ、持ち帰り用にラップして喜んで店を後にした。
「お前このクソ恋文くん! クズ! 変態! 悪魔めーーーっ!!!」
姫木はもう我慢できなくなり、LINEから俺に怒りのメッセージを連投してきた。
姫木もまた、すぐさま会計を済ませ、カフェから走り去った。
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