結晶の門
zakuro
第1話 静止した門
荒廃した地球は、軌道上から見るよりも静かだった。都市は平らに崩れ、コンクリートの残骸が広大な荒地に散らばっている。風だけが道路標識を鳴らし、砂埃が低く舞った。降下艇のハッチが開き、フロイド博士は重力に逆らわずに地面へ降りた。足元の瓦礫は乾き、踏むとカリッと音を立てる。
高架橋の影に、黒い直方体が置かれていた。形はモノリスの寸法と完全に一致している。計測器は安定した値を示し、微細な変化はない。博士は慎重に近づき、記録装置を起動した。影の奥、崩れた石段の上に、動かない人影が見えた。
その人影は老婆だった。背中は丸く、衣服は灰色に退色している。頭部は透明な結晶に変化しており、光を屈折させている。微かな光の揺らぎが内部で反射を繰り返し、計測器が振幅の微細な変化を拾った。
博士は距離を保ち、測定値を記録する。老婆の身体は動かず、声も呼吸も確認できない。ただ、結晶の頭部だけが光を返し、荒廃した門の影に寄り添っている。
空は薄く、夕方の光を帯びている。崩れた高架橋と瓦礫の間、風が低く唸り、紙片が砂に転がった。博士は立ったまま、計測器の値を眺め続けた。門は動かず、人影も静止したままだった。
時間だけが、静かに地面をすり抜けていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます