8話:ルカの成績向上作戦!カイとの共同戦線の行方は①

 期末試験、それは学生にとっては切っても切り離せない試練で、当の俺も例年通り頭を悩ませてるんだけど……


「まさか、自分の事より悩む日が来るなんて」


 放課後の教室、俺の机の上に広がる中間試験の悲惨なテスト結果。それは俺のものではなく俺のペアのルカのものだった。

 期末試験が近くなったので、俺はルカに何か苦手な科目とかあれば相談乗るよって声をかけた。そして今日、成績一覧を持ってきてもらったんだけど、まさかこんな事になるとは思わなかった。


 うちの学園の定期テストは大きく分けて2種類ある。実技と座学だ。

 実技は体術と魔法を実地試験で、そして座学は魔術理論をはじめとした知識体系の試験をペーパー形式で行う。

 俺はどの試験も真ん中くらいの成績、体術とか苦手な科目はクロードに教えてもらってなんとかしてるのが通例なんだけど――


「実技は満点どころか加点までフルでもらってるのに、なんで座学はこんなことになってるの……?」


 ルカの成績表を眺めながら俺は絶望していた。当のルカは何も気にしてないと言った顔でこちらを眺めているのが事の深刻さを感じさせる。


 ……いや違うこの顔は実技の満点を褒めて欲しいという顔だ、付き合いが3ヶ月にもなるとこのクールビューティーの無表情もだいぶわかるようになってきた。


 確かに実技の満点はすごい、俺はクロード以外の人がこの成績をとってるのをみたことがない。正直いうとルカは魔法の実技に限っては学年ではなく学園で1番なんだろうなってことも確かな実感としてある。でもそれを手放しで褒められないほど、この座学の現状は悲惨で俺の頭を悩ませた。


 うちの学校は定期試験で実技、座学どちらかに赤点があると夏季休暇に補修がある。そして1年生が補修の場合、ペアである2年生も強制参加になる。つまりルカがこのまま期末試験に挑んで赤点の場合、俺の夏休みは補修一色になるということだ。

 それは絶対に避けたい。


「こいつ、賢そうな顔してんのにこの成績なのってなんかのバグか?」


 興味本意から同席して、答案用紙を覗き込んだカイが心の底から驚いたという顔でルカの顔を覗き込む。


「カイは顔に見合わず成績いいよね?いつも割と上位だし」

「てきとーにやってりゃまあまあできるだろ?」


 ヒラヒラと手を振るカイを横目に俺の脳裏にある考えが閃く。


「じゃあさ、ルカに勉強教えてあげてよ?考えてみたら俺じゃあんまり役に立たないし、ね?お願い」

「はっ……はああ!?なんで俺が……ってか手ぇ離せよ!」


 俺は、カイが咄嗟に逃げ出さないように両手で彼の右手を掴み必死に懇願する。


「お願い!俺も手伝うから、ね?」

「お前いたところであんま変わんねーじゃん」


 カイが髪と同じ金色の瞳を逸らしつつ軽い悪態をつく。いつもなら言い返すところだけど今回はこっちがお願いしてる立場だ。


「お願い!俺にできることなら……なんでもじゃないけどできるだけしてあげるから!」

「っ……まじで!?……っしゃーねぇなあ!その代わり約束忘れんなよ」


 俺の提案に目をパッと見開いてカイが承諾する。

ちょっと無理かと思ってたけど交渉成立だ。


「ありがと!やっぱカイって意外に頼りになるよね」

「意外は余計だろ……てか、ペアの補修って実際やってるやついねぇだろ、お前1人なら赤点は取らねぇだろうしなんでそこまで……」


 カイが言っているのは正論だ。制度としてはペアの補修に付き合う必要があるけど、それを真面目にやってる人はほとんどいないと聞く。

 だけど


「まあそうなんだけど、俺からペア誘った手前サボるのもアレだし。それにルカに楽しい夏休みを過ごさせてあげたいからさ」


 せっかく少しずつ心を開くようになってきたから、もっと自由に笑って欲しいし、俺のことも友達って思って安心して欲しい。それには補修付けの夏季休暇より、楽しいこと詰めの夏季休暇の方がいいに決まってる。


「はぁ……お人よしもここまでくると凄ぇな」

「カイだってなんだかんだ言って付き合ってくれてるじゃん!じゃ、頑張ろ!」


 こうして俺とカイの、ルカの成績向上作戦が開始したのだった。色々と不安もあるけど、後輩を導くのも先輩としての勤めだよね!


 ◇


「いやこいつ、俺に教わる気ねえだろ」


 成績向上作戦初日、放課後の教室で早速カイが音を上げた。

 というのも、ルカはカイの授業をものすごくふてぶてしい態度で聞いていたからだ。……いや聞いてもないかも?


「ルカ、ちゃんとカイの話聞いて、どこがわかんないのかまずは把握しよ?」


 何故かルカに膝に乗せられながら座ることになった俺は(顎乗せられてるし、重心とかで座りやすいとかなのかな?)ルカの集中を引き出すために教科書を指差した。


「……これが、なんの役に立つの……?」


 が、当のルカはそう言って眉間に皺を寄せる始末だ。


「……言葉で説明しなくても、できればいい」


 魔術理論の冒頭部分、基礎の基礎についてカイが丁寧に説明した所の感想がこれだ。


「……できない奴には必要かも、しれないけど、俺は全部できるからいらない」


 確かにルカにとってはそうなのかもしれない。俺たちが呼吸をする感覚でルカは魔法が使える。だからこれは彼にとって呼吸をするための仕組みを文字で覚えるみたいなものなのだろう。

 だけど、できると知ってるは違う。


「ルカ。ルカはきっとこの学校で1番魔法ができるよね?」

「……うん、フレンが見たいならなんでも見せてあげれる」


 うーん、……最近ルカもクロードみたいに話がズレてる事がある気がする。まあそれは置いておいて


「でもね、人に伝えるときには共通の言葉が必要なんだよ」

「……言葉?」

「ルカはものすごい魔法が使えるけど、それを他の人にも教えれたらもっとすごいと思わない?その為にはこういう理論を知っておく必要があるんだよ」

「……別に教えなくてもいい……フレンには教えてもいいけど」


 ぷいっと横を向くルカを強制的にこちらに向き直させて俺は言葉を続ける。


「俺が教わる時も理論があった方がわかりやすいし……俺はルカの凄さを多くの人に知ってもらいたいから、ルカが使える言葉を増やしたい。だから頑張ろ?」


 そのまま両手でルカの顔を包み目を合わせて伝えるとルカの瞳が揺れる。


「……フレンが、そう言う……なら、少しだけやってもいい」

「ありがと!頑張ろうね!それじゃ、カイお願い!」

「お、おー、いい話っぽいけどこの話俺がさっき説明した内容だよな?まじでこいつ……はぁ、じゃあもう一回やるから今度は聞いとけよ一年坊」


 肩を落として説明し直すカイに心の中で手を合わせながら俺はルカを見上げる。さっきまでと違って不満げではあるけど教科書の文字を目で追うルカの姿に俺は小さな前進を感じた。期末試験まであと少し、放課後とはいえ強い日差しが差し込む教室で俺たちは机を並べて小さな一歩を踏み出した。

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