第十章|日常の速度

同じルートを回る日が増えた。

曜日ごとの利用者、時間帯ごとの渋滞。

みどりは、少しずつ流れを覚えていった。


「今日は早いですね」


車に乗り込むと、雄二がそう言った。


「慣れてきました」


それだけの会話だったが、

自分でも驚くほど自然に言葉が出た。


利用者の家での対応も、前より迷わなくなった。

迷った時は、雄二が先に動く。

判断が必要な時は、必ず一度こちらを見る。


任せるでもなく、任せきりにもしない。

その距離が、ちょうどよかった。


昼休憩は、コンビニの駐車場で済ませることが多かった。

エンジンを切り、窓を少し開ける。


「前の仕事とは、全然違いますね」


雄二が言う。


「そうですね」


それ以上は続かなかった。

比べる必要はないと、二人ともわかっていた。


ある日、利用者から「若い彼氏?」と聞かれた。

雄二は即座に首を振った。


「仕事仲間です」


それだけ言って、話を終わらせた。


みどりは礼を言うべきか迷い、結局何も言わなかった。

その沈黙も、変ではなかった。


帰り道、信号待ちでふと窓の外を見る。

季節が少し進んでいることに気づく。


気づけば、今日一日、余計なことを考えていなかった。

それが、少し怖くて、少しだけ心地よかった。

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