第八章|新しい場所
面接は、思っていたよりも淡々と終わった。
介護施設の事務所は古く、壁に貼られた予定表の文字は少し色あせていた。
「忙しいですよ」
面接官はそれだけ言った。
それが条件であるかのように。
みどりはうなずいた。
忙しいほうがいい。考えなくて済むから。
採用の連絡は早かった。
前の会社を辞めてから、ほとんど間を置かずに新しい職場が決まった。
制服に袖を通すと、少しだけ現実感が戻る。
名前を呼ばれ、簡単な説明を受け、現場に出た。
利用者の名前を覚えること。
時間を守ること。
転ばせないこと。
一つひとつが具体的で、余計な感情が入り込む隙はなかった。
「じゃあ、今日はこのメンバーで回ります」
そう言われて紹介された顔の中に、初めて見る若い男性がいた。
「雄二です」
短く名乗り、軽く頭を下げる。
それ以上でも以下でもない。
車に乗り込み、エンジンがかかる。
窓の外を流れていく景色を見ながら、みどりは深く息を吐いた。
ここでは、誰も過去を知らない。
説明する必要も、弁解する必要もない。
それだけで、十分だった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます