未知人間

獅子倉八鹿

第1話

 人は、数種類に分類できる。


 それが、播磨暁はりまあかつきが21年生き続けて出した持論である。


 学食のカツ丼を口に運びながら、食堂を眺める。


 服や髪型に気を遣いながら、周りの迷惑は気にせず騒ぐ派手な男女。「カースト上位」組。

 独り言が多かったり、勉強にのめり込んでいたりと何かと真面目過ぎる人々。「真面目」組。

 服装が独特だったり、万人とは違う思想を持つ人々。「変人」組。

 アニメやゲームが好きで、服には無頓着。特有の世界観を持っている人々。「オタク」組。

 そして、空気を読み過度に主張せず、身なりも人並みの「並」組。

 他にも分類はいくつかある。


 こうやって一人食事を取る暁本人は、並組だ。

 平均。人並。変に目立たないこと。

 それを念頭に置き、暁は今まで生きてきた。




「お待たせ」


 暁が最後の一切れとなったカツを口に入れた時、丼の向こうに二人の人影が表れた。

 暁が顔を上げると、前には並組に所属する友人、雄二と、見知らぬ女子学生が目に入る。


「は」


 あと少し口元を緩ませたら、暁は口内のものを吐き出してしまっただろう。

 もったいない精神と恥ずかしいところは見せられないプライドで無理やり口を閉じた。


 暁の目の前に、『未知』が、立っていた。


 目の前にいるのは、別に宇宙人ではない。

 猫耳が生えている訳でも、皮膚が銀色である訳でもなかった。


 ただ、暁には彼女を『分類』できなかった。


 特にアレンジをしている訳ではないが、手入れをしていない訳でもないストレートヘア。並組。

 しっかりと化粧している面では、カースト上位組だ。

 服装は麻素材らしき白いシャツに、エスニック系統のスカート。変人組だろうか。


 一番恐ろしいのが、このバラバラな系統の寄せ集めが、喧嘩することなく、一つの人間として目の前に存在していることだ。


「雄二、誰?」


 思ったよりも、ハキハキとした明るい声で『未知』は問いかけた。

 雄二の方を向く際に髪が揺れ、ムスクらしき色気ある香りが暁の鼻をくすぐる。

 その声と香りはカースト上位層を連想させる。


 そうなると、彼女はカースト上位層なのだろうか。

 丸いたれ目で暁のことを見つめる『未知』は、派手な猫やライオンより、癒しを与えるナマケモノを連想させた。


「こいつは同じゼミの暁。暁、こいつは俺のバイト先のやつ」

「やつ」


 自身のことをやつと表現されたことが不服な様子で、『未知』は眉をひそめる。


「お前なぞやつ扱いだ。貴重な休みを堪能しようとした俺を召喚しやがって」


 そう言うと、雄二は『未知』にげんこつを落とす。

 どちらも本気で怒っていない様子を見るに、仲が良いのだろう。


「で、彼女の名前は」


 暁はそう問い、話を元に戻す。


「こいつは須藤杏」


 『未知』改め須藤杏は、一気に借りてきた猫のような仕草で暁にお辞儀をする。


「次に、なんで俺からプリントをもらうのにその須藤さんがついてきた訳」

「さっきも言ったけど、昨日こいつバイト休んでさ。俺が代わりに出たんよな。そのお礼として学食を奢ってくれるそうな」

「雄二にはお世話になってるし、これくらいは」


 へらへらと笑う須藤に、暁は目が離せなかった。

 分類ができない未知の物体に、暁は困惑するばかりだった。


 不動だった持論が、目の前の人物によって音を立てて崩れていく。

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