聖夜に溶ける

冷めたクリスマス

十九歳の冬、彼はクリスマスが好きだった。


理由は特になくて、

街が少しだけ綺麗になること、

夜がやたら静かに感じること、

そういう曖昧なものが好きだった。


二十歳になる少し前、彼女と付き合った。


初めて一緒に過ごしたクリスマスは、

二十歳の冬だった。


人混みの中で手を繋ぐのが、

少しだけ照れくさくて、それが妙に嬉しかった。


高い店には行かなかった。

コンビニで選んだケーキと、少し冷めたチキン。


それでも、

「こうしていられるだけで、幸せだね」

彼女は小さく笑った。

その笑顔と声が、今でも胸の奥に残っている。


二十一歳の春、少しずつ、会話が減った。


好きじゃなくなったわけじゃない。

ただ、同じ温度でいられなくなった。


別れたのは、二十一歳の夏の終わりだった。


二十二歳の冬。

彼はもう、何も期待しなくなった。


イルミネーションを避けるように、

遠回りして帰る。


店内に流れる音楽が、なぜか胸に刺さる。


嫌いになった、

というほど強い感情じゃない。


ただ、

思い出してしまうから、

近づかないようにしているだけ。


彼は知っている。

クリスマスが嫌いになったんじゃない。


十九歳の頃の自分と、その隣にいた彼女が、

もうどこにもいないことを、受け入れきれないだけだ。


二十二歳の冬。


彼は今日も、静かな夜を選ぶ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る