第26話 その痛みと勝利の報酬
目を覚ました。起き上がろうとしても、身体が動かない。視界に入ってくるのは、土色の天井。
「知らない天井ね……痛たた…」
「無理に、ネタを挟むな…っ、いてぇ……」
ここは先ほどの控え室だ。頭上からのナデシコの声に反射的にツッコむ。起き上がろうとしたら、身体が痛んだ。
首を上げて、身体の確認。どうやら、身体に布を掛け掛けられている。頭の下には柔らかい感触、布を丸めた枕のようだだった。
衣服は所々すり切れているものの、何故か綺麗になっている。もしかして、生活魔法というものだろうか?洗浄魔法?ありそうだ。
控え室にあった長い椅子に、二人で縦に並べられて寝かせられているのだろう。
身体は痛み、手足もろくに上げられないが、意識ははっきりしている。話す分には問題ない。
「ナデシコ、どこまで覚えてる?」
「あれは今から36万…いや、」
「真面目に。…俺はアーテナイが倒れた時から記憶がない」
「私はもう少し意識があったわよ。その後は、実況が私たちの勝利を宣言。会場が割れんばかりの大歓声。沸き立つオーディエンスをDJシェーヌが帰らせて、私たちとアーテナイは係員ドワーフたちのクラウドサーフで退場ってとこ。運ばれてる途中に私も意識喪失。ちなみにアーテナイは、倒れてからしばらくしたらイビキかいてたわ」
「途中でライブハウス寄ってなかったか?…ま、ありがとな」
ちなみにクラウドサーフは、ライブ会場で観客が他の観客を頭上を波乗りのように運ばれる行為のことだ。実際には、某植物に指令を出して荷物などを運ばせるゲームのような光景だったのだろう。
ん?俺たちの勝利?
「ちょっと待て、俺たちの敗北条件は続行不可、アーテナイは背中を付いたら負け。これ、引き分けじゃね?」
「……そう言えばそうね。というかそもそも、私たちが勝負から喧嘩にした時点で、試合じゃなかったんじゃ…」
まさかの誤審か、そもそも試合だったのか、勝負だったのか、喧嘩だったのか。俺たちは、そろって首を傾げていた。
「面倒くさいガキだねぇ。アンタらの勝ち、それでいいだろ?それとも、アレは誤審でアタシは負けてませんなんてカッコつかないこと言わせる気かい?」
「もう眼が覚めたんだ、二人とも。治癒術を使った先生は、ある程度回復したら眼が覚めるって言ってたけど」
「あれから1時間ってとこね。ああ、そのままでいいわ。完全に回復したってわけじゃないんでしょ?」
「アーテナイ」 「ベンにリニーも」
三人が控え室に来ていた。1時間待ってたのだろうか。というか、アーテナイはもう完全に回復している。なんて生き物に喧嘩を売ったんだ、俺たちは。
「はいこれ、預かってた荷物。…貸しの件は、少なくとも祭りの間はこの町に居るから、ご飯でも奢ってもらおうかしら」
「一緒に祭りで遊んでご飯を食べよう、だって」
「…ベン!」
「ちなみにアタシが荷物を預かろうか、って言ったら、眼を覚ますまで待つって言ってたね」
「……!」
二人は俺たちの近くに預けていた『取り寄せバックパック』を置いた。
そして、さすがにアーテナイには強く出れないリニー。ツン『デレ』なのに『出れ』ないとはこれは如何に。
「アーテナイ様、代わりの杖の貸し出しや、杖職人の紹介ありがとうございました。では、ボク達はこれで。……二人ともおめでとう、そしてまたね」
「ま、よくやったんじゃない?おめでとう。有名人はこれから大変だと思うけど、有名税として受け入れなさい。…アーテナイ様、色々とありがとうございました」
「アンタらならAランクも遠くないさ。せいぜい頑張りな」
どうやら、俺たちを待っている間に、なにやら三者間で話があったらしい。
「ありがとね、リニー。また会いましょ」
「ベンも助かった、またな」
俺とナデシコは、布から腕を出して拳を突き出した。ベンとリニーはそれに自分の拳を当ててから、笑って退出した。その背中を見送り。
「「痛たたたた」」
「……なにやってんだい」
悶える俺たちにアーテナイは呆れていた。
「さて、アタシに勝ったってことは……どういうことか分かってるね?」
アーテナイはその場に座った。その目は真剣だ。
「……願いが叶う、でしょ?」
「たしか、『その財力、人脈で叶えられることを何でも一つ』だっけか」
「知ってるならいいさね。…ま、急な勝負に、急な話だ。考える時間もいるだろう」
「「誰のせいだ誰の」」
急に挑んできたのはアーテナイだ。アーテナイは眼を反らした。いや、受ける方も受けるほうか。
「……とにかく、明日の朝にでも迎えをやるよ。じっくり考えな。そう言えば、どこに宿を取ってるんだい?」
「いや、宿じゃなくて、アレクさんの服屋にお世話になってる」
「鉱員相手の作業服を下ろしてる店よ」
「ああ、あそこか。……よし、行くか」
俺たちは被せられた布ごと持ち上げられた俺たちは、それぞれ両肩の上。アーテナイの手には俺たちの『取り寄せバックパック』と置いていた荷物を持ってる。
「ち、ちょっと待ちなさいよ!」
「拉致だ!連れ去りだ!人さらいだー!」
「今から帰すとこだろうが……さぁ、暴れるんじゃないよ!」
こうして、俺たちは大通りを簀巻きの様なスタイルで運ばれることになる。
道中、誰も止めなかったのは、アーテナイだったからか、珍妙な三人に関わり合いになりたくなかったからかは、俺たちには分からない。
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