第10話 この暖かな食卓

「ヤマトさん、ナデシコさん、改めてこのたびは本当にお世話になりました」


「いやー、まさか娘と父さんの恩人だったとは、本当にありがとう!……そして、すまない」


「まったく、おぬしは服のこととなると…しっかり、反省せい」


「はんせいせい!」


「…はい」




あの後すぐ、アメリアママ、シャーロットさんがカレブさん、アメリアパパの首根っこを掴み、止めてくれた。その手慣れた様子から察するに、もしかしたら日常的にやってるのかもしれない。亭主関白、異世界でも滅んでいることを確認。


その後アレクさんがきて、二人に事情を説明してくれた。


今は二人に食事に誘われ食卓を囲んでいる。最初は遠慮しようとしたのだが、わくわく顔のアメリアちゃんの前にはあまりにその抵抗は無力だった。


椅子を店舗から2脚運んだところから、4人暮らしだと分かった。




食卓には、シャーロットさんがカレブさんが買ってきた肉の串焼きを串から外したもの、ドイツパンに近い買い置きのパン、野菜の切れ端が入ったスープを暖めたもの。


厨房にはオーブンとコンロが一体になったものがあったが、動力は分からない。


食事前には、アメリアちゃんに手を牽かれ、一緒に蛇口から出る水で手を洗った。


そして、金属製のスプーンとフォークがそれぞれの前にある。水差しも同様に金属製。食器、コップは木製だった。


今のところ、家の中にあるものは既知のものばかりだし、衛生観念も現代日本にかなり近い。




「さあ、頂きましょう?あり合わせで申し訳ないけれど…」


「ううん。とってもおいしそう。この町で食事を取るのが初めてだから、無作法だったらごめんなさい」


「いいのよ。一番の無作法ものは私の夫ですもの」


「うっ…!」


「あの、そのへんで…。俺たち、もうお腹すいちゃって」


思わず助け船を出した。キラキラした目でカリブさんが俺を見る。やめてくれ、その好感度はいらん。




「では、恵みに感謝し………」


「「「………」」」


両手を握りしめ目を伏せ沈黙、食前の祈りの仕草は、手洗いの際にアメリアちゃんに聞いた。困った時のアメリアちゃん。家長の号令を待って食べ始めるそうだ。


「頂くとしよう」




パンは手で、肉はフォークで、スープはスプーン。アレクさんはスープから、カリブさんは肉、シャーロットさんはパンを一口、アメリアちゃんはパンを千切り、スープにつけて食べている。


「ヤマトくん?どうかしたかい?」


「いや、なんでもない。いただきます」


観察から入ってしまった。


まずはスープ、あっさりとした塩味だ。野菜の風味がアクセントになっていて飲みやすい。入った根菜の切れ端は柔らかく口の中でほぐれ、暖かなものが胃に入ると身体の緊張もほぐれる。


続いて肉、冷めてはいるが堅くなってはいない。こちらも塩と、少々の香辛料が肉の臭みを相殺している、かむほどによく味がでてくる。屋台料理らしく塩気が強い。


パンを口に運ぶ、肉の脂は固めのパンによく合う。あまり、そのものの味を感じなかった固いパンだが、よくかみしめれば甘みを感じた。口の中に乾きを覚え、スープにまた手が伸びる。


穏やかな食卓だった。賑やかな会話はなかったが、アレクさんは食事をうなずきながら噛みしめ、カレブさんとシャーロットさん時折アメリアちゃんを見て微笑む。




「なんだか…うらやましいわ…」


ナデシコの呟きは、右隣にいた俺にしか聞こえない、表情は見えなかった。


俺は椅子を少しだけ、ナデシコの方へ近づけた。右手が時々ナデシコに触れたが、ナデシコはなにも注意しなかった。隣の雰囲気がすこし和らいだ気がした。






「おいしかったね、おにーちゃん、おねーちゃん!」


「そうね。すっかりご馳走になっちゃた」


「ああ、シャーロットさんのスープも上手かったな」


「ふふ、ありがとう。そう言えば、服を選ぶのでしょう?ナデシコちゃんは私が手伝うわ」


食事と片付けも終わり、女性三人で売り場に向かった。何故だろう、かなり待つ予感がする。




「ヤマトくんは僕が手伝うとも。そう言えば、森を駆けて来たのなら、洗濯が必要ではないかな?預けてもらえれば、完璧な状態にしようとも!一晩、一晩でいいのだが!」


俺の方はというと、巻き尺を手にしたカレブさんに迫られていた。


懲りないなぁ、この人。言葉選びも最悪だ。


「じゃあ、頼めるか?」


「いいのかい!?」


「ナデシコのは貸せない。分解とかは駄目。あと、その代わりと言ってはなんだが…」




俺はカレブさんあるお願いをした。その願いは快諾され、俺のサイズに合う服一式を売り場から持ってくると、その場でジャージと交換した。ジャージを持ったカレブさんは作業部屋へと駆けていった。


いや、洗濯の体裁くらい保とうぜ。

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