第7話 この地を駆けるもの

「すまなんだ、恩に着るぞ。おぬしらが来なかったら孫共々どうなっていたことか…。本当にありがとう」


「…ありがとうごさいます、おにいちゃん、おねえちゃん」




深く頭を下げるご老人と、若干目に涙を貯めた女の子。どうやら、ジェスチャーも元の世界と同じ思って良さそうだ。




「わしはリオスで服屋を営んでおる、名をアレクという。こちらは孫のアメリアじゃ」


「いえ、偶然でも間に合ってよかったです。俺は…ヤマトです」


「私はナデシコと申します。ええ、お二人に怪我がなくて本当によかったです」




リオスは街の名前だろう。先ほど勢いで名乗ったが、こちらも改めて名乗ることにする。


正確にはあだ名なんだが、ご老人改めアレクさんも名字を名乗らなかったので、その作法に合わせた。


名字を持っているのが一部の人たちとかだと面倒だ。


アレクさんはナデシコの方を見て、目を見開いて驚いている。気持ちは分かる。だが、ナデシコの外面は大変よろしく、教師陣のウケもいい。そのヤンチャがバレるまでは、という枕詞は付くが。




「ほっほっほ、無理に畏まることはない。普段通りに話してくれて構わん。…それにしても、魔物の侵入を防ぐ『防魔林』の内側に、魔物になりかけのブラックベアが居るとはの。他に迷い込んで来た個体が居るとは思えぬが、帰ったならば街道警備隊に報告せねば。すまぬが、同行頼めるかの」




情報量の多い言葉だ。他は大体察しが付くが、気になるのは。




「私たちも街には行くつもりだったし、同行は構わないわ。それにしても、魔物になりかけ?こういうことはこの辺じゃよくあるの?」


あっさり態度を崩したナデシコが問う。




「いやいや、めったにないわい。わしも昔、商会ギルドの報告書で目にした程度じゃが…」




そもそも魔物に血肉は無く、生きてる物に対する憎悪と攻撃性を持つ、生き物よりも現象に近い存在だそうだ。


魔物は倒すと体の一部、素材と魔石、魔物の核となる物、を残して消え去るらしい。


食べれる素材もあり、動物が魔物を撃退し、その素材と一緒に魔石を飲み込む、そんな偶然に偶然が重なった時に生まれる可能性がある、らしい。


いや、アレクさん、話長ぇよ。


ナデシコなんてさっきから、ぽんちゃん3世を出してアメリアちゃんと遊んでますよ?地獄耳だし、話は聞いてるだろうけど。




「アレクさん、見たところ…荷台をひくやつが見当たらないが」


この世界に馬がいるか確証も持てないので、濁した質問になった。辺りに血痕もない、まさか自動車?




「おお、この辺りは馬よりこやつらが重宝されておっての。ほれもう大丈夫じゃよ」




アレクさんが荷台の下を覗き込み、地面を撫でる。すると、地面からトカゲのような生物が顔をだす。


ヒラメやカレイの擬態に近いだろうか、体を震わせ地面をならし終わると荷台の下から出てくる。


体長は3m程度だが、体高は1mもない。威圧感がないのは、不安げに左右を確認しているその所作故か。近くに置いてた、熊の毛皮を見つけるとアレクさんの後ろに隠れた。




「『リトルアースリザード』、臆病じゃが馬車を牽くぐらい訳もない。大型荷台を運ぶ『アースリザード』の小型種のこやつらが馬車を牽いておる。うむ、手綱(たずな)が土だらけじゃな、首引きも外れてしもうたか。繋ぎ直すから少々待っておれ。おぬしたちも乗っていってくれるかの?」


「ああ、それは助かる。二人にも声をかけてくるよ」




慣れた手つきで作業を始めるアレクさんを手伝えることもないので、二人、いや正確には二人と一体のところに向かう。




「それでね。先生にね、よく覚えてるねって褒められたの!」


「『さっすがアメリア、おれさまのダチだぜ!』」


「うん!」


ぽんちゃん3世、そんなキャラだったのか。




「あ、おにいちゃん、おじいちゃんとのお話おわったの?」


「ああ、もうちょっとで出発みたいだ。ぽんちゃんと話してたのか?」


「うん、協会の先生に教えてもらったのを聞いてもらったの!」


こっちはこっちで情報収集していたらしい。




「そうか、よかったな」


すっかり笑顔になったアメリアちゃん、その頭を撫でようとして手を頭に伸ばそうとしたが、そこにぽんちゃん3世のインターセプト。ぬいぐるみの両手を使ってアメリアちゃんで撫でるナデシコ。


「『おっと!アメリアはおれさまが守るぜ!あと、誰にでもそういうことをするのはよくないぜ!』……マジで、ね?」


最後の部分の低い声は俺にしか聞こえないように小声だった。


ぬいぐるみに撫でられてご満悦なアメリアちゃん、対して俺は背筋を凍らせていた。


怖いって、ナデシコさん。機嫌が悪いときの姉ちゃんと同じ声色だったよ。

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