普通の女子高生なのにいきなり異世界に落ちたんですが!?

湯雪

第1話 穴に落ちたらダンジョンでした

 ――その日、ユキノは遅刻寸前だった。


「やばいやばいやばい! 高校一年生で初遅刻はさすがに印象最悪だから!」


 制服のスカートをひるがえし、全力疾走。

 朝の通学路、パンをくわえて走るのは古典すぎるので今日は普通に走っている。


 普通に。


 本当に、普通の朝だった。


「はぁ……はぁ……今日の数学、絶対当てられる気がするんだよな……」


 そんなことを考えながら、曲がり角を――


 踏み出した瞬間。


「……え?」


 足元が、


「ちょ、ま――――!?」


 視界がひっくり返り、浮遊感。

 悲鳴を上げる暇もなく、ユキノの体は真っ黒な穴に吸い込まれていった。


 ――――――――


「……ん……?」


 頭が痛い。

 背中が冷たい。


 ユキノはゆっくり目を開けた。


「……天井、岩?」


 ゴツゴツした石の天井。

 壁も床も、どこを見ても岩、岩、岩。


「……え、ここどこ?」


 起き上がると、ジャリッと音がした。

 足元には砂利と、苔と、光るキノコ。


「……光るキノコ???」


 状況を整理しようと深呼吸。


「私はユキノ。日本の高校一年生。さっきまで通学路を走ってて――」


 記憶が、そこまでで途切れる。


「……穴に落ちた?」


 周囲を見回すと、壁に刻まれた不思議な紋様。

 松明のようなものが、勝手に燃えている。


「……これ、どう見ても――」


 ごくり。


「ダンジョンだよね!?」


 漫画やゲームで何度も見た光景。

 つまり――


「異世界転移!? いや、転落!? 説明役の神様は!? ステータス画面は!?」


 両手を広げて叫んだ、その瞬間――


『……はぁ』


 頭の中で、盛大なため息がした。


「……え?」


『まず最初にそれ? 穴に落ちて最深部っぽい場所に放り出されて? そこで期待するのが“神様のチュートリアル”?』


「ちょ、ちょっと待って、今の誰!?」


『誰って……君のだけど』


「は?」


 思わず自分の頭を押さえる。


「……スキル?」


『そう。正式名称は――まあいいや、長いし。とりあえず私は“君専用の能力”』


「能力が喋ってる!?」


『そこから驚く? いや、そこはもう少し落ち着こうよ高校生』


「なんでそんなに上から目線なの!?」


『だってさぁ……状況理解、遅すぎ。

 異世界モノのテンプレを期待してる暇があったら、まず周囲を確認しなよ』


「……ムカつくんだけど」


『安心して。私も君のこと、ちょっと残念だと思ってるから』


「両想いみたいに言うな!」


 頭の中の声は、楽しそうに続ける。


『ちなみに神様? いない。ステータス画面? ない。

 ここ、かなりブラックな環境だから』


「そんなの聞いてない!」


『聞いてないも何も、説明する義務のある存在がいないんだってば』


 ユキノはその場にへたり込んだ。


「……じゃあ、あんた何ができるの?」


『私? 君の生存率を、ギリギリ底上げしてあげる存在』


「ギリギリって何!?」


『そのままの意味。

 君が何も考えず突っ込んだら死ぬ。

 でも私の助言をちゃんと聞けば――』


 声が、少し低くなる。


『――生き残る可能性はある』


 その瞬間。


 ――ガサッ。


 闇の奥から、嫌な音がした。


『……あ、ほら。来た来た』


「来たって何が!?」


『敵。しかも初心者殺し。

 正直言って――』


 赤い目が、闇の中で光る。



 ふざけた口調の奥に、

 はっきりとした緊張が混じっていた。


 ユキノは、息を呑む。


「……じゃあ、あんた」


『ん?』


「ちゃんと助けてよ。私のスキルなんでしょ?」


 少しの沈黙。


『……仕方ないなぁ』


 声は、どこか楽しそうに笑った。


『じゃあ教えてあげる。

 ――最初の一歩、踏み外すと死ぬからね』


 ほのぼのとしたやり取りは、ここで終わり。


 戦闘が、始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る