第15話 影の刺客

 1. 王都への道:危険の予兆


 アストリアを発ち、リアンとマリナは王都へと続く街道を馬車で進んでいた。リアンは、周囲の風景を『ナノ・サイト』で常に警戒していた。叔父の残した奥義書に記された『影の円卓』の警告が、彼の心に重くのしかかっていた。


「リアンさん、あまり無理しないで。警戒は私が引き受けるわ」


 マリナが心配そうに言う。


「いえ。彼らは、通常の方法では現れない。警戒を怠れば、命を奪われる」


 リアンの予感は、すぐに現実となった。街道の木々が生い茂る森に入った瞬間、馬車の御者が、突然、何もない空間に向かって叫び声を上げた。


「ひっ、化け物だ! 何も、見えないのに……!」


 御者は恐怖にかられて馬車を止め、森の中へと逃げ去った。


 リアンは即座にナノ・サイトを広げた。


(視覚、聴覚、触覚……全ての感覚に異常なし。しかし、御者の反応から見て、何らかの**『不可視化』の術を使っている。そして、御者の精神を直接攻撃する『精神攻撃』**も併用している)


「マリナさん、馬車から降りてください。戦闘態勢です」


 リアンは弓を構えた。



 2. 闇に潜む刺客:シャドウ・ストーカーとサイレンス・ウィスパー


「よく気づいたな、弓術士。だが、もう遅い」


 リアンの背後から、冷たい声が響いた。声の主は、完全に不可視化されたまま、リアンを取り囲むように移動している。


「俺は『影の円卓』のシャドウ・ストーカー。貴様が持つ弓を回収に来た」


 その声と同時に、マリナが突然、頭を抱えてうずくまった。


「きゃあああ! 頭の中に、声が……!」


「私は『サイレンス・ウィスパー』。貴様の『戦術』とやらを、精神から破壊してやろう」


 マリナの苦悶の表情から、敵のもう一体が『精神攻撃』を得意とする刺客だとリアンは理解した。


 ナノ・サイトが、不可視化されたシャドウ・ストーカーの『空気の微細な歪み』と、足元の『土の振動』を捉える。しかし、シャドウ・ストーカーは通常の物理的な存在とは異なり、まるで影そのもののように、触れることができない状態にある。


(物理的な攻撃では、実体を持たない影を捉えられない。そして、サイレンス・ウィスパーの精神攻撃がマリナさんを蝕んでいる。このままでは、二人ともやられる)


 リアンは、奥義書に記された『魔力貯蔵庫の解放』を試みる時だと判断した。


「叔父さん……この弓の真の力、今、解放します!」



 3. 究極の解放:魔力貯蔵庫の咆哮


 リアンは、『ストーム・ウィスパー』を強く握りしめた。彼の体内の魔力が、弓の特殊な合金に吸い込まれていく。そして、弓の中に秘められた『魔力貯蔵庫』が、リアンの集中力に応えるように、起動し始めた。


 ゴオオオォォォォ……!


 弓全体が、リアンの体から流れ込む魔力と、弓の中に蓄積されていた膨大な魔力によって、青白い光を放ち始めた。その光は、周囲の闇を吹き飛ばすかのように輝き、不可視化されたシャドウ・ストーカーの『影のヴェール』を焼き払う。


「なっ!? 不可視化が解けるだと!?」


 シャドウ・ストーカーは驚愕した。


 シャドウ・ストーカーの姿が、闇の中から現れた。それは、全身を黒いローブに包み、影の刃を携えた細身の男だった。


「サイレンス・ウィスパー! 精神攻撃を集中しろ! こいつの集中力を乱せ!」


 しかし、リアンは既に、『振動弓術』の応用に入っていた。弓の弦が、リアンの魔力によって高速で振動し、周囲に『音の防御壁(ソニック・シールド)』を展開する。


 ピィィィィン!


 サイレンス・ウィスパーの精神攻撃が、この音の壁に衝突した瞬間、精神を蝕む『波長』が乱され、霧散した。


 マリナの苦しみが止まった。


「あ……あれ? 頭の痛みが……」


「これが、俺の弓の真の力。お前たちの小細工は、全て無意味だ!」


 リアンは、弓に魔力を満たしたまま、矢を番えた。矢の先端は、純粋な魔力の塊となり、『究極の魔力矢(アロー・エンチャント・ゼロ)』へと変貌していた。



 4. 影の円卓、初の敗退


 シャドウ・ストーカーは、リアンの弓の圧倒的な魔力と、展開された防御障壁に狼狽しながらも、影の刃を構えて突進してきた。


「この弓さえ奪えば……!」


 リアンは、ナノ・サイトでシャドウ・ストーカーの『影の刃の軌道と、ローブの隙間に隠された本体のコア』を瞬時に特定した。


 ドォン!


 放たれた魔力矢は、シャドウ・ストーカーの影の刃を魔力で溶解させながら、そのローブを貫通し、本体のコアを正確に射抜いた。


「ぐああああああっ!」


 シャドウ・ストーカーは、影を保てなくなり、断末魔の叫びと共に、その体が黒い煙となって霧散した。


 残されたサイレンス・ウィスパーは、仲間の消滅と、リアンの弓の恐るべき力に恐怖し、一瞬にして姿を消した。


 リアンは、弓の魔力貯蔵庫を閉じ、深く息を吐いた。身体に激しい疲労感が押し寄せる。魔力貯蔵庫の解放は、彼の肉体と精神に甚大な負荷をかけた。


「リアンさん! 大丈夫!?」


 マリナが駆け寄る。


「問題ありません。俺は、叔父さんの仇と初めて直接対決しました」


 リアンの瞳には、決意の光が宿っていた。


「彼らは、この弓の力を、『世界を覆す力』と呼んでいた。だから、叔父さんを殺してまで奪おうとしたんだ」


 マリナは、リアンの弓の真の力、そしてその背景にある重い宿命を目の当たりにし、改めてリアンとの旅の重要性を認識した。


 リアンは、『影の円卓』の刺客が残したわずかな痕跡をナノ・サイトで分析した。彼らは、単なる暗殺者ではない。『世界の技術を支配しようとする組織』。その恐るべき目的の一端を垣間見たリアンは、王都で更なる情報を集め、彼らの野望を阻止することを誓った。


「王都へ急ぎましょう、マリナさん。俺たちの旅は、これからが本当の始まりです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る