聖なる屠殺―美味しいサンタの育て方―
迷想三昧
第1話 聖夜に関する未知
「佐藤亮平様、あなたの能力は『召喚』です。これは、未知の能力ですね」
司祭の声が聞こえるが頭には入ってこない。
能力どころか今のこの状況自体が未知との遭遇だ。
「クリスマスとかどうせ暇やろ? 割のいいイベントバイトあるから紹介したるわ」
超コミュ強陽キャ芸人である兄の言葉を思い出す。
兄は知っていたのだろうか。
能天気な兄が爆笑している姿を思い浮かべ、案内の女性に促されるまま会場へと向かった。
◆◇◆◇
会場のドアを開けると立食パーティ形式らしく、大勢の人が立ち話をしている。
正面には大きく『クリスマス中止のお知らせ』の看板。
呆然としていると30代くらいの男性に話しかけられた。
「兄ちゃん初参加か? こっち来て何か食いや」
「はぁ、ありがとうございます」
男性に手渡されたやけに美味しいサンドイッチを食べる。
「しかし、格式高いぼっちイベントにカップルで来てるやつらはなんなんや」
周りを見渡すとちらほらとそれらしき男女が見受けられる。
受付で聞いた、能力がなければ会場にたどり着けないという話を思い出す。
「カップルで能力者ってことですかね」
「いつからかしらんが、ほんま嘆かわしい限りや」
「僕は兄にバイトだと言われて来ただけで何も知らないんですが、これはどういうイベントなんです?」
「はぁ? 何も知らんで来るのもびっくりやけど、イベントは見たらわかるやろ。リア充撲滅の会合や!」
「都心にあるイベント会場の地下にこんな場所があるのも知りませんでした」
「そりゃ、最高機密やからやな。大っぴらにはできんわ」
「あと、能力とサンタ狩りというのもよくわかってません」
男性がニヤリと笑った。
「サンタが殲滅できればクリスマスが中止になって平和になるやろがい。で、兄ちゃん能力はどうやったんや?」
因果関係がわからず、宗教行事としてのクリスマスを心配しつつも返事をする。
「『召喚』って言われました」
「おお、聞いたことないな。24日のお楽しみやな」
「サンタ狩りですか?」
「そうや、サンタ狩りや。能力が役に立たんと逃げ回るしかないこともあるし、覚悟はしときや」
サンタに追いかけられて逃げ回る自分の姿が容易に想像できる。
受付では安全だと聞いたけど嘘だったのだろうか。
自分の中の得体の知れない何かは、根拠もなく大丈夫だと告げている。
「やけどまぁ、今年は伝説のハンターも孫の成人で復帰するらしいし大丈夫やろ」
◇
流れていた音楽が止まり、会場の照明が薄暗くなる。
正面の舞台上、スタンドマイクの前に仮面をつけた男性が立ち、スポットライトが当たっている。
「ご来場の諸君! 本日、12月20日。栄えある『クリスマス中止のお知らせ決起集会』も、第30回を迎えた」
仮面の男はマントをばさりと翻す。
ふわりと鼻腔に嗅いだことのない香りを、ほのかに感じた気がした。
「昨今ではSNS上の妨害活動も活発化し、広報活動で苦戦を強いられているのは周知のことだろう。だが担当者は今もなお、不断の努力を続けてくれている」
男がすっと手をあげる。
「今年もまた、クリスマスの中止は叶わないことが予測される。だが!」
あげた手は拳を握り、胸に当てられた。
「本番は24日の『サンタ狩り』だ!」
『おおおおおおお!』
会場から歓声があがる。
男はマイクに両手を添える。
「数多の先人達の犠牲の元、私たちは今年も戦う。どうかそのことを忘れないで欲しい」
会場にいる一人一人にドリンクが配られる。
甘酸っぱい上品な香りが漂っている。
壇上の男も手にグラスを持ち、高く掲げた。
「それでは、クリスマスの中止とサンタの殲滅を祈って!」
『クリスマスの中止とサンタの殲滅を祈って!』
会場中に声が響く。
その場にいる全員が一斉にドリンクを飲み干した。
上品な甘さと香りが自分の口の中一杯に広がる。
そのあまりの美味しさに驚愕を感じながら、会場中に広がる『サンタ狩り』コールに身を興じていった。
胃の奥に落ちていくアルコールと未知の甘味。
自分の中の未知と混ざり合っていく感覚。
次のイベントは、四日後。 12月24日。
『サンタ狩り』と『召喚』、未知に対して心は高揚していた。
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