第11話 ネットサーフィン
「オルアメルゲス中央王国。世界の中心に位置する建国二千年の国。」
二千年。長いな。
「公用語ニルヴェル語。首都ニルブ。絶対君主制国家。人口三十億人。」
三十億、なんじゃそりゃ。憶ってなんだ、まさか……。
「千万の次。」
だよな。そんな人間がいるのかよ。気持ちわりぃ。
「でも、世界第三位らしいよ。人口密度では一位だけど。」
それで三位か。人間何人いるんだよ。
「世界人口。百三十二億人だってさ。」
エエエエ。そんなにいるのか。虫みたいだな。
「首都に、ほら城があるよ。旧ニルブ王都城。ボロボロでしょ。」
これか。
画像を見る。
思ったことは、ぐちゃぐちゃ。何がどうなっているのかさっぱりわからない。大きな建物があるのはわかるが、大量にある。それが小さい建物を覆い隠すように繋がっていて、構造がわからない。
少なくとも俺の知っている国ではないな。
「建物は古いのが多いからね。」
古い。古いねぇ。俺が見る限り、こんな建築力を持つ種族なんて小人くらいだ。しかもこんな大きくない。人間がこんなに複雑で大きな建物を作れるようになるには何百年の研鑚があったと思う。それが古い建物なのか。
「うん、だって一番古い建物で一万千七百年前って書いてあるよ。」
一万千七百年前。一万。そんな古い建物があるのか。
どの建物だ。知っているかも。
「ンンちょっと待って。オルアメルゲス中央王国、最古の建物。……これかな。えっと観光名所になっている場所で古代の貯水所の跡だって。その入口になっていた建物が残っているみたい。」
これか。大きな石畳の十字路の真ん中に丸屋根の建物。周りには多くの人が集まっている。
これは何で集まっているんだ。水を飲むためか。
「ん、これ観光名所。この建物を見るために人が集まっているの。」
はあ、面白いのか、それ。
「ンンンまあ建物を見る、というよりは地下貯水所跡に入ることが目的なんでしょ。歴史的に価値があるし、神秘的みたいだし。」
はあ、まあ確かに水のない貯水所は何か地下迷宮のような感じがするな。
でも普通、迷宮なんて絶対近付かない方がいいところだけどな。
平和な世界では、逆に人が集まるのか。
「あなたの世界には迷宮があったの。」
この世界には迷宮がないのか。
「ンンン、複雑な迷路のような空間ならあるけど。そっちの迷宮はどんな感じの。」
似たようなものだよ。ほら俺たちがいた洞窟も一種の迷宮だよ。まあ、あれは迷うほど複雑な構造ではなかったが。雰囲気は獣人族が使ってそうな場所だったな。
迷宮を作る種族は魔族や魔物、小人族なんかが作るな。住居や防衛のためにな。財宝とか大事な物を守るための倉庫として作られたものもある。
あと一番危険な迷宮は何かを封印するために作ったもの。複雑で罠が大量に張られている。その果てに出会えるのは危険な魔獣とか、だったりする。
「それは地下に作られるの。」
地下が多いな。特に小人族や獣人族は地下に作る。龍人族や翼人族は天空に作ることもあったな。魔族や魔人族あたりは術で空間を捻じ曲げて作る場合もある。
小人は複雑な建物を作る場合が多い。
「うん、この世界の迷宮とはだいぶ違うね。」
だよな。種族が少ないし、術もないし。そりゃ貯水所なんかが迷宮扱いされるわけだ。
なんだか、オルアメルゲスに手掛かりを求めたが無理そうだな。
俺の知っている世界と違い過ぎる。
城はトゲトゲした面影があるが、俺の知っているのとは違う。俺の知っている城はまるで何千本の槍が装備されたような城だ。飛行できる魔獣が近づけないように城壁や屋根も尖らせていた。
まさに世界の中心を守るための鉄壁の要塞だった。
それに比べる、この城の尖り方は飾りだ。俺の知っている城ではないな。
ンンンン、世界の中心に手掛かりはないか。
「ンンン、これは旧市街の写真。ほぼ観光名所だね。その近くに政府の中枢機関があるみたい。」
川の対岸は建物が全く違う。整った町だ。碁盤の目のように道が整っている。区画ごとに大きな建物が整列されている。
銀色の都市、といった感じだ。
都市の中央近く。整理された区画を無視するように銀色の山のような建物がある。
建物は上から見ると十字になっている。十字の端にそれぞれ塔が建っている。そこから十字の交わる中央に向けて山なりに上がって中央の塔へと繋がる。
ぱっとみ、あれだな大量のビルがくっついたような建物だ。ただ、ただのビルよりは銀色の装甲で着飾っている。そのため無機質な魔術師という感じはしない。
「これ、あれだよ。城だよ。」
城。これが。
周辺は緑の庭に囲まれている。壁はない。誰でも開放された庭に入ることできる。
「うん、今のオルアメルゲスの王家の住まいと政治の中心。」
はあ、こんなでかいのか。
「うん。えっと第百二代オルアメルゲス王、カルファン十三世・スルナン・ビュラルファ・オル・アメルゲス。よし噛まずに言えた。」
アメルゲス。こいつアメルゲス軍の奴なのか。
「待ってね。王様の家系なんてわかんないから。えっとねぇ。アメルゲス王の子孫らしい。」
アメルゲス王。なんだ、あの軍から王でも生まれたのか。
「ンンンンン、そのアメルゲス軍って何。」
えっと、そのときの世界の中心を治めていた国が集めた軍。特に亜人、魔族狩りを目的とした軍。なんだ、えっと義勇兵ってわかるか。正規の軍ではなく、亜人や魔族から被害を受けていた周辺諸国から逃げてきた奴らを集めた軍隊の名前。
「それは、種族とか関係なく集まったの。」
まあ、そうだな。ただ人種は関係なかったな。
そういった、周辺から多種多様な奴らを集めた軍だから、その地域にちなんでアメルゲスと名乗って、一つの組織として戦った、だったはず。
「フンンン。えっとね。このサイトは誰でも書き込める記事だから信ぴょう性はないけど、書かれている内容を要約するね。」
ああ、頼む。
「アメルゲス王、というのはオルアメルゲス中央王国周辺に伝わる神話に登場する王。」
神話。
「アメルゲスとは、現オルアメルゲス中央王国周辺の古代の呼ばれ方。」
古代、どのくらい前だ。
「初代アメルゲス王はアメルゲスに住み着く怪物オルドネを仲間と共に倒し建国した王。」
オルドネ。なんじゃ、その生き物。
「オルアメルゲス中央王国の王家は、アメルゲス王の正統後継者。子孫ではないみたい。」
古代っていつの話。
「アメルゲス、神話、いつ。えっと、アメルゲス神話……紀元前九千年前。」
九千年前、九千。本当に。
「あの、え、今、紀元後二千年。だから紀元前九千年は、今から一万一千年前の神話になる。」
一万。……そんなに古いのか。
一万年前にアメルゲス王がいた。それが本当なら俺が術に掛けられた後の話だ。だって俺が知っている限りアメルゲスは義勇軍の名前であって王の名前ではない。ましてや世界の中心を治める国の名前ではない。
それなら俺は一万年以上前に術に掛けられたのか。
そんなに前なのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます