誰でも医者になれる時代〜だったら私でも!?〜
Chiaki
第1話 波のように
海は今日も、何事もなかったかのように、白波を「ザパーン!」と打ち寄せては、サッと引いていく。
目の前に広がるのは、無限に続く青い海。まあ、ただの海じゃないんだよね。
だって、この海の向こうには、誰かがいて、たぶん、あっちでも誰かが海を見てるに違いないんだよね…なんて想像してると、急に胸がドキドキする。
「今日こそ、何かが起こるかも…!」って、ちょっとした予感が、波に揺れる夢のように、こっそり火をともしてる。
でもね、現実の私は、まるで「くらげ」。本当は飛魚(とびうお)のように素敵に空を舞いたいけどさ。
ただただ流されるまま…あ、うん、ただ生きてるだけって感じ。
ちなみにくらげは好きじゃない。きれい、っていう人もいるけど、それは刺された事がないからだよ。
で、昨夜、久々にあの夢を見たんだ。
優しい手が頭をなでて、落ち着いた声が「かしこい子だね」ってほめてくれる夢。
でもその温かさも、急に暗闇に飲み込まれて消えちゃう。
何度も「お父さん!」って呼んでも、返事は…まったく返ってこなかった。
目を覚ましたら、心の中にポッカリ穴が空いてるような感じ。
この夢。飽きもせず、いつも一緒なんだ。
とりあえず、砂に文字を書きながら落ち着こう。
私、志乃(しの)の毎日の習慣は、字の勉強と浜辺での海苔採り。勉強っていっても砂浜に書いて覚えるだけだけどね。書いていると自分の頭の中に入っていく感じ。手を動かすのがいいのかも。
でも今日は、ちょっと長く居すぎたかな。そろそろ帰らないと、なんて思って、腰を上げたんだよね。
その時。
砂浜の先、海風に揺れる人影が見えた。
ん?なんだ、あれ?
次の瞬間、その人影がバターン!って倒れた。
「え…?」と、思わず固まる。
でも、その後、身体が勝手に動いて、駆け出してた。息を切らしながら砂だらけの顔を拭いてると、その男、うっすら目を開けて、すぐにまた閉じた。
「誰か…!」
周りを見渡すけど、誰もいない。みんなどこいった?いくら田舎でも、いつもなら1人2人いるでしょ!
急いで海辺の材木屋に転がるように走った。
「仁ちゃん!浜で人倒れてる!」
作業してた仁朗(じろう)たちが驚きながら走ってきて、みんなでその男を材木屋に運んだ。
その男、見たことない顔だった。
肌が白くて、鼻がピン!って高い。ツヤツヤした巻き毛が額にかかって、着物を着てるのにどこか異国っぽい雰囲気がある。
「熱がある…」
額に濡れた手ぬぐいを乗せて、そっとうちわで風を送る。
その顔、眠ってるみたいに穏やかで、でもそれがちょっと不安を呼ぶんだよね。
息はしてるし、生きてはいるのは分かるけど。
人が突然倒れるの、初めて見たよ…
知らない人でも慌てるね。
少しお酒の匂い…まさか酔っ払い?しかも、朝に?
うちわで髪が揺れてる中、男がゆっくり目を開けて…
「ここは…?」
低く落ち着いた声で言った。
あれ?なんか、夢の中の声に似てる。
「あんた、目が覚めたかい?この子が倒れてるの見つけてくれたんだよ。」
と、仁朗の母。
「志乃ちゃん、こっちは大丈夫だから、いったん店に戻りなさい。」
でも私は首を横に振った。なんだか、この場を離れちゃいけない気がしたんだ。
男はゆっくり体を起こして、深くお辞儀をした。
「ご迷惑をおかけしました…」
その時、「うぅ…」と泣き声が聞こえた。
走ってきたのは仁朗の姉・幸(さち)と、浩太。そして、幹太が幸に抱っこされてた。
「父さん!幹太の腕が変なの!」
幸が焦った声で言うと、仁朗の父が「怪我でもしたのか?」と聞いた。
「怪我はないみたいだけど…」
その会話を聞いてた男が、低い声で聞いた。
「詳しく教えてくれませんか?」
幸は一瞬、「え?」って顔したけど、すがるような気持ちで話し始めた。
「兄と遊んでたら突然泣き出して、左腕を動かさずにずっと泣いてるんです。」
「腕、見せてくれる?」
幸は幹太を男の前に立たせた。
男は布団から立ち上がると、幹太の腕を優しく握って言った。
「痛くない?」
幹太は泣き止んでうなずいた。
男は浩太に言った。
「もしかして、この子の腕を引っ張ったりしてないかな?」
浩太は少し黙って、下を向いてから答えた。
「追いかけっこしてる時に、ちょっと引っ張っちゃった…」
「ありがとう、教えてくれて。」
男は浩太の頭を優しくなでながら、幹太の肘を持って腕をやさしく動かし始めた。
「痛くないからね。」と言いながら、幹太の肘を曲げていく。
そして、肘を曲げ切るところで腕を少しひねったように見えた。
「腕、動かしてみて。」
みんなが静かに見守った。
幹太は恐る恐る自分で肘を曲げて、また伸ばした…
え⁈
治ったことが分かり、すぐに幸と母が男に向かって深くお辞儀した。
何?
この人、すぐに状況把握して治しちゃった!
「…何をしたんですか?」
まっすぐに尋ねると、男はにっこり笑って言った。
「肘の骨が外れていたんです。それを元に戻しただけですよ。」
瞳が深緑。吸い込まれそうだ…
いかんいかん、すぐにかっこいい男子に反応してしまう。
田舎は毎日毎日おんなじ顔ばっかりだからね。
そして、男は静かに名乗った。
「私は神近義道(かみちかぎどう)と申します。旅の途中の者です。あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「志乃です。」
その名前を言った瞬間、なんだか、何かが始まりそうな気がしたんだ。
仁朗の母が荷物を見て言った。
「お医者さんなんですか?」
男はちょっと照れたようにうなずいた。
「はい、今は学びのために旅をしています。」
幹太の家族や材木屋のみんなが「ぜひ泊まっていってください!」って言ったから、神近はその好意を受け入れ、材木屋の離れに泊まることになった。
胸がまるで波のように揺らいでいた。
「明日も、きっと会いに来よう。」
私の穏やかだけど退屈な毎日が変わる気がする。
いや、変えたくなっちゃった。
だって、17年生きてきて、もう飽きてきちゃったし。
いやいいよ、安定って。
でもそんなのつまんない、って心のどこかで思ってる。
さぁ、どの方向に行くかな。自分。
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