第8話 殲滅任務
「すまん、羅網。配属が急でまだ用意出来ていないんだ……」
幼子のような姿のハヤムネが、その見た目を存分に活かした上目遣いを向けてくる。
無垢を装った幼げな視線。その直後、周囲へと素早く目配せをした。
「ということで、澤田はこれから急ぎ空き部屋を片付けて羅網の部屋を作ってくれ。桧内と羅網は、澤田が部屋を片付けるまで近場の任務を処理してきてくれ」
「ハヤさーん、サヨコちゃんは?」
「私と茶の続きだ」
有無を言わせぬ采配だった。
澤田は「はいはい」と肩をすくめながら、部屋を後にする。
「任務詳細は如何様に」
俺の問いに、ハヤムネは先程の無垢なものとは別人のような鋭い眼差しを向ける。
「これだ。内容は移動中に確認しなさい。──殲滅任務だ」
短い沈黙。
端末に表示された文字が、淡々と命令を告げる。
──命令:殲滅
「装備室へ。最低限は揃えてある」
ハヤムネに案内された先で、無機質な金属棚に並ぶ装備を確認する。
俺に給付されたのは、事前に間渡によって申請された黒の狩衣のような服だ。
結界処理が施された軽装で、動きを阻害しない作りだ。
袖を通すと、布が肌に馴染む。
武器は木刀一本。
だが、ただの木ではない。霊力を通せば芯が鉄へと変じ、斬撃を通す――魁小隊標準の給付品だ。
「扱えるか」
桧内が横目で確認してくる。
「問題ない」
柄を握り、軽く振る。重さはまだ木のまま。
必要になれば、すぐに変わる。
装備確認を終え、俺たちは山荘の結界を出た。
向かう先は“東京辺境”。
地図上では東京に含まれながら、人の流れから切り離された場所だ。廃れたビル群と人影の乏しい公道。昼間でも、空気はどこか薄暗い。
こういう土地は、妖にとっての楽土になる。
「最近、第十八結界の不具合を確認」
桧内が車内で端末を操作しながら言う。
「失踪が十二件。共通点は?」
「全員、夜に第三区画の狭い路地に入って、そのまま消息を絶ってる」
――喰われたな。
そう判断するのは容易い。だが問題は、“何に”喰われたかだ。
現場付近で車を降り、問題の路地つくと、空気が一段と冷えた。
気配はある。しかし、人間のものではない。
「……来る」
俺の呟きに、桧内が即座に体勢を低くする。
ビルとビルの隙間。割れたアスファルトの奥で、何かが蠢いた。
それは影だった。だが、影にしては重く、粘ついている。
耳を刺すような女の高くひび割れた笑い声。
続いて、骨の擦れる不快な音。
「見た感じ、隙間女か。厄介だな」
桧内が相手を分析しつつ刀の柄に手をかける。
俺も木刀を握り、霊力を通す。芯が鉄へと転じ、重さが腕に伝わった。
胸の奥が、微かにざわめく。
――斬れ。
誰のものとも知れぬ命令が、頭の内に響く。
影が形を成し、こちらを睨め付ける。
東京辺境の夜に、戦端が静かに開かれる。
─────対象:隙間女。任務:殲滅。
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