第18話
その日は、ダンジョン帰りだった。
街からみて南西の奥にある中規模ダンジョン。
灰鴉の主な稼ぎ場だ。
空は、やけに低い。
風が冷たく、嫌な匂いを運んでくる。
マルセルが、足を止めた。
「……焦げ臭ぇな。血の匂いもする。」
ロランが頷く。
俺も、分かった。
5年前の記憶が、ざわつく。
道の先、丘を越えた向こう側。そこだけ、空気が違う。
「……祝福持ちがいます。」
ピエールが、低く言った。
姿は見えない。それでも、分かる。
圧。重さ。
人間なのに、人間じゃない何か。
「……数は?」
ロランの問いに、ヴァンサンが答える。
「一人。だが、周囲が歪んでいる」
マルセルが、舌打ちした。
「関わる気はねぇな。」
「同感だ。」
ロランが即答する。
俺は、思わず聞いた。
「……助けに行かないんですか?」
一瞬、空気が止まる。
マルセルが、俺を見る。
「坊主。」
「はい。」
「状況を見誤るな。」
短い言葉。
ロランが、続ける。
「祝福持ちは、最前線か王宮にいる。ここにいる時点で、ロクな状況じゃない。」
ピエールが、静かに言った。
「私たちが行けば、火に油を注ぐだけです。」
ヴァンサンが、淡々と付け足す。
「……勝っても、負けても、恨まれる」
納得できる。
前世でも、そうだった。
(介入は、混乱を増やす。)
だが。
「……見捨てるんですか?」
そう聞いてしまった。
マルセルが、鼻で笑う。
「違ぇよ。本隊には近づかねぇだけだ。」
ロランが、真っ直ぐ言う。
「俺たちは、冒険者だ。英雄じゃない。」
ピエールが、少しだけ悲しそうに微笑む。
「だからこそ生き残れる人もいるのです。」
丘の向こうで、何かが弾ける音がした。
地鳴り。
祝福持ちの力だ。
俺は、拳を握る。
(止められない。放っておくしかない)
胸の奥に、嫌なものが溜まる。
マルセルが、ぽつりと言った。
「坊主。近づかない理由を、覚えとけ。」
——覚える。
残す。
英雄になれない理由を。
冒険者である理由を。
それが、いつか。
止めるために、必要になると。
その時、初めて思った。
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