全部、お兄ちゃんのものですっ!

雨宮照

第1話 私の好きな人

 放課後の屋上。


 私、有栖川京香は、クラスメイトの男子で、サッカー部主将の、帝野玲夜くんに呼び出されました。


 ......また、きっと、告白です。


 帝野くんは、運動神経抜群で成績も優秀な、女子の注目を集める、キラキラした男子。性格もよくて、人のお手伝いとかもよくしています。


「実は、二年の頃からずっと、有栖川さんのことが好きでした。付き合って下さい!」


 帝野くんが、頭を下げて、手を差し出します。

 私は、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、その手を取らずに、告げました。


「......ごめんなさい、好きな人がいるので」


 目の前の帝野くんは、頭をあげて自嘲気味に笑うと、「突然ごめんな」と、バッサリ断った私のことをフォローしてくれます。


 ほんとにいい人です。

 私に好きな人がいなかったら、付き合っていたかもしれません。


 私は、踵を返して校舎の中に戻ります。

 実は、私の好きな人は、この学校にはいません。


 他の中学校にいるわけでもありません。


 


 教室に戻ると、担任の先生が、私のことを待っていました。


 今日の放課後は、先生が私に話があると言っていました。先にすこし用があることは伝えておいたので、仕事を進めようと思ったのでしょう、先生は先日行われたテストの採点をしています。


「遅くなって、すみません」

「いやいや、用があったならいいんだ。そこにかけてくれ」


 私は、先生の向かいの席に座ります。

 すると、先生はこんなことを聞いてきました。


「こんなことを聞くのは、君にとっていい事なのか分からないが、有栖川さん。君は、この学校生活、楽しいかな?」

「なぜ、そんなことを聞くんですか?」

「いや、君が楽しいならいいんだが、あまり他の生徒と一緒にいるところを見ないから、心配で、ね」


 ......余計な心配をかけてしまいました。

 また、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになります。


「先生、私は、先生たちのおかげで、毎日楽しいですよ」


 先生に申し訳ない気持ちを、精いっぱいの笑顔であらわします。


「それに......」


 私は続けます。


「私、お兄ちゃん以外のひとに、興味ないので」


 

 恋愛だってそう、友だちだってそうです。

 そんなことに現を抜かしているくらいなら。

 そんなことに時間を奪われるくらいなら。

 お兄ちゃんに好かれるような、魅力的な女性になりたい。

 綺麗になりたい。優秀になりたい。かわいくなりたい。

 そう思ってしまいます。


 でも、それでいいんです。

 私の全てはお兄ちゃんであり、私の喜びは、お兄ちゃんとともにあるのです。


 

 これは、そんな不器用な生き方をしている私と、お兄ちゃんの、限りなく不器用な、恋物語です。

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