第一章 崩壊と邂逅篇
ロストバース
ペタ、ペタ、と、何もない繁華街を歩く足音があった。
街灯は一つも灯っておらず、そこかしこに元商品の山が転がっている。
何か、大きなモノに壊された様な、そんな凄惨さが残っている。
そんな街の中心に、引きずってしまうほどに長い外套を、頭から爪先まですっぽりと覆い、顔も確認できない存在が在った。
街はとうの昔から薄暗いが、外套を纏ったソレの顔は、フードに覆われているため回りからは微塵も見えない。
ソレは、ただただゆっくりと歩き続けていた。
ふと、外套が風に揺らめいた。
外套の前がブワッと風に煽られ、ソレの身体が明らかになった。
ガリガリに痩せて、これ以上ないほどに薄汚れた貧相な身体。
その身体は、一切の衣服を纏っていなかった。
何よりも目を惹くのは、ソレ…。少女の背中に生えた大きな触手。
タコともイカともまた違うそれは、少女の上半身と同じくらいの大きさを持っていた。
また、触手に目を取られてうまく見えないが、少女の髪は薄汚れてこそいたものの、綺麗な白をしていた。
少女はいわば、“ロストガール”と呼ばれる存在であった。
数多の星を守る、たった1人の
彼女は、この無数に存在する
だが、今、彼女の
今まで様々な問題が発生していた宇宙ではあったが、崩壊に至る様な問題ではなかったはずなのだ。
それなのに、宇宙は異常を検知し、その命を絶えさせた。
彼女以外の生命体を排除し、自らまで破壊し出した。
彼女は、最初こそ原因解明と宇宙の復旧に乗り出してはいたが、いつしかその行動すらやめて、宇宙の端まで歩いていた。宇宙がボロボロと壊れている場所に。
宇宙の外の、やはり何もない真っ暗闇に、バースのカケラが落下してゆく。
それはまるで、剥がれかけた皮膚を剥がす様にも、硬い殻を脱いでいる何かの幼虫の様にも、命を絶えさせるしがない老木にも見えた。
事実として、何もないただの大きな虚空が、大きすぎる虚空が、大口を開けてそこにいた。
少女は、虚空の穴の前に立っていた。
もう一歩踏み出したら、虚空に落ちてしまうだろう。
光の失った目で、虚空をじっと見つめていた。
少女が一歩踏み出そうとした時、踏み出した方とは逆の足の下にあった地面がボロリ、と崩て落下を始めた。
「ぅわ、わ、わ」
元々、もう一歩踏み出して死ぬつもりでいたのだが、心の準備ができていないのに強制的に紐なしバンジーへの片道切符を切られ、少女は反射的に元いた地面に向けて手を伸ばした。
だが、手は地面を掠ることもなく、少女の小さな身体はそのまま宇宙の外へと落下し出した。
宇宙空間よりも更に暗く黒く、そのくせ何もないマルチバースの隙間に落下した彼女は、身体中をぶんぶん振り回され、もみくちゃにされながらどんどん落ちていく。
空気は、もちろんない。
宇宙空間内でも呼吸ができる彼女であったが、宇宙の狭間ではその権能も機能を止めてしまっていた。
息が止まり、彼女は青い顔で苦しそうにもがくが、結局何も起こらずその体をぐったりと脱力させた。
……あれから、どれだけ経っただろうか。
彼女の宇宙は既に壊れ切ってこのマルチバースから消え失せた。
それでもなお、彼女は永遠とも思える宇宙の狭間の中を彷徨っていた。
と、突然、彼女の体がガクン、と動いてその進路を捻じ曲げた。まるで、突然見えない手に掴まれ、引かれているかの様に。
少女の動く先には、一つの宇宙が在った。彼女の宇宙よりも、一層。いや、何十倍も輝きを放っている。そんな宇宙。
彼女の体は、マルチバースの狭間を彷徨っていたのとそう大差ない程長い長い年月をかけてその宇宙に吸い込まれて行った。
とはいえ、マルチバース空間を抜けただけであって、彼女の体は更に更に長い年月をかけて宇宙空間内を移動し出した。
宇宙空間内でも呼吸ができる彼女であったが、移動している際彼女の体が再び行動を再開することはなかった。
さあ、更にそれからどれくらい長い年月が経っただろうか。
彼女の進行方向上に一つの星が見えて来た。
いくつもの双星を超え、幾千もの星羅を超え、何十もの銀河を超え、何千万もの星を超え、幾億の小惑星を超え、辿り着いたその星は、青い色をしていた。
惑星らしいグレーでも、金でも赤でも茶色でもない、かつて彼女が日々を過ごしたのと同じ、青い星。
彼女の体はどんどんと勢いを増してその星に吸い込まれていく。
大気圏に突入した彼女の体は、火を噴き出しながら落下していく。
その時、彼女の背から生えていた無数の触手が突如として活動を再開し、外套の隙間から姿を表すと、彼女の体を守る様に包み込んだ。
何本もの触手が黒色の血を撒き散らしながら千切れ飛ぶが、彼女の体は大気圏を突っ切り、地上へと辿り着いた。
触手が周囲にあった木を掴み、勢いを殺しながら彼女をそっと地面に横たえると、外套の中のしゅるしゅると収まっていった。
「……あら?」
と、そんなところに、一つの声が響いた。
高い声だ。けれど、決してうるさくはない。強いて表現するのであれば、小鳥のさえずりだろうか。
「こんなところに人間がいるだなんて…珍しいこともあるものねえ」
彼女は可笑しそうにくすくすと笑うと、少女の横に座り、少女に声をかけた。
「貴方、生きてる?」
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