雨宿りに入ったコンビニで出会った大阪のお姉さん
白鷺雨月
第1話 雨宿りに入ったコンビニ
今年の四月に静岡から大阪に転勤になって早くも二ヶ月が過ぎた。
最初、この大阪の街に戸惑いはあったけどテレビなんかで見るよりは怖くはなかった。
あのコテコテの雰囲気は極一部で、その他はいわゆるどこにでもある地方都市の一つだった。
ようやくこの街での生活に慣れてきた六月下旬のある日のことだ。
会社からの帰り、僕はゲリラ豪雨にあい、雨宿りのためにたまたま見かけたコンビニエンスストアに入った。
外は文字通りバケツをひっくり返したような大雨であった。
どうにか間に合ったけど髪の毛もスーツの上着もかなり濡れてしまった。
しばらくここで雨宿りして帰ろう。
さすがにただで帰るのは気が引けるので何か買って帰ろうかな。
そんなことを考えていたら、
ずぶ濡れの女性がコンビニに入ってきた。
「はぁえらい雨やわ。ほんまにかなわんわ」
絵に描いたような大阪弁を発し、その女性は店内に入ってきた。
パンツスーツ姿の背の高い女性だ。
大阪に来て二ヶ月経つけどここまで強い大阪弁の人は見たことがない。
いや、聞いたことがない。
ひと昔前のテレビドラマの大阪人キャラが話しそうな訛りだった。
気になった僕はその女性をまじまじと見る。
そして、 思わずドキリとしてしまう。
その女性はかなりの美人であった。
年の頃は二十代後半だろうか。
背中までの長い黒髪をゆるめにくくっている。
ややクセのある黒髪が白い頰にぺったりとはりついている。
あのゲリラ豪雨の中走ってきたのだろう。
水もしたたる良い女になっている。
顔立ちはややつり目でどことなく猫を連想させる。
黒いスーツの下は白いワイシャツで大手企業のキャリアウーマンといったいでだちだ。
身長は百七十五センチメートルある僕よりはやや低いといったところか。
女性だとかなり背の高いほうにはいると思う。
さらに特筆すべきはその胸の大きさだ。
たっぷりと肉のつまったその胸はワイシャツの布地が張り裂けそうなほどぱつぱつだ。
それに雨にぬれたせいで花がらのブラジャーが透けて見える。
白い胸の谷間がうっすらと見える。
僕はおもわずごくりと生唾を飲んだ。
あまり見てはいけないと思うが、視線を外すことはできない。
悲しいかなそれは男の性だ。
大阪弁のその女性の胸の魅力に僕はどうしても目が離せないでいる。
魅力的な胸の谷間を凝視しているとその女性と目があってしまった。
不味いな。
これではとんだ変態ではないか。
僕は慌てて視線を外す。
余計にわざとらしくなってしまう。
セクハラとして糾弾されるかも知れない。
「お兄さんもここで雨宿りしてはるの?」
鈴がなる美声だった。
小首をかしげてその女性にそう訊かれた。
すっと透明な雨粒が彼女頰を流れる。
しっとりと濡れる女性に僕は色気を感じる。
良かった。
胸を見ていたことを咎められるわけではなさそうだ。
「ええ、まあ……」
僕は緊張しながら答える。
黒髪美人を目の前にして緊張してしまう。
彼女の白くて細い首に流れる水を見て、とてもエロいと思ってしまう。
「ほんまにかなわんわ。家まであともうちょいやのにこんなに濡れてしもうて」
黒髪美人は手で濡れる頰を拭う。
このコンビニは僕が住むマンションの近くでもある。
ということはご近所さんということか。
こんな美人が近くに住んでいたなんて驚きだ。
この濡鴉のような黒髪をもつ女性はそこいらの女優やモデルなんかよりも美人だ。
そして僕のどストライクなタイプであった。 「僕もこの近くなんですよ」
おもわず言ってしまった。
「そうなんや、ほんならご近所さんやね。よろしうね」
にこりと微笑む。
その笑顔は少女のように幼くて可愛らしい。
初めて見たときは凛とした佇まいの美人だと思ったが、笑顔になるととんでもなく可愛らしい。
ギャップに萌える。
「よ、宜しくお願いします」
僕はぺこりとお辞儀をする。
「うちは
頰にかかる髪を彩音さんはかき上げる。
すべすべとした頬から目が離せない。
「僕は
僕は自己紹介する。
「ほな、よろしゅうな貴史君」
ほぼ初対面なのに下の名前で呼ばれてしまった。
だけど不思議と嫌な気はしない。
「は、はい」
緊張した僕はそれだけしか言えない。
そんな様子を見て彩音さんはうふふっと語尾に吐息の混じる笑い方をする。
それが色気があってたまらない。
また手のひらで彩音さんは頬に流れる水をなぐう。
ずっとそうしているということはハンカチやハンドタオルは持っていないということか。
僕は仕事用のリュックサックからハンドタオルを取出し、彩音さんに手渡す。
「貴史君、これ貸してくれるの?」
そう訊かれたので僕は「はい」と返事をする。
これも何かの縁だ。
ハンドタオルを貸すぐらいはなんてことはない。むしろ美人の前で格好をつけたい自分がいる。
大学を出て二年、女っ気のない生活を送っていた僕は美人とであって有頂天になっていた。
「ほんまにありがとう。たすかるわ、貴史君」
僕の手からハンドタオルを彩音さんは受けとる。
そのとき、触れる指先の温かさを僕は忘れない。 この指で触れてほしいと僕は思った。
彩音さんは僕のハンドタオルで濡れる頬や首筋を拭く。
彩音さんは、ほらと外を指さす。
ゲリラ豪雨は何処かに行き、雨はやもうとしていた。
この雨がやんだらこの美人とわかれないといけないのか。
「なあ貴史君、お礼にコーヒー奢るわ。ほらコンビニで雨宿りしてなんにも買わへんかったらお店にも悪いしな」
その申し出に僕は素直に甘えることにした。
雨に濡れて寒くなっていたので僕はレジでホットコーヒーのカップをもらう。
彩音さんはホットカフェオレのカップを店員さんから受け取り、スマートフォンで決済した。
コンビニを出て、僕たちは店の前でコーヒーを飲んだ。
僕もこの辺りに住んでいると言うと彩音さんはそうなんやと驚く。
「貴史君、せっかくやしライン教えてよ」
せっかくの意味はよくわからない。
でもせっかくなので僕はラインのQRコードを彼女に見せた。
彩音さんはスマートフォンでQRコードを読み取る。
彩音さんのアイコンは自撮りであり、それも美人であった。
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