第2話

 「…えっ?」


 「あいつは超能力者なんだ。人を操れるがどうもお前は無理らしい。遠くから見ていたがお前はあいつに見られても正気を保ってるようだった。」


 話に理解が追いつかない。ただこちらから質問をする前に男が口を開く。


 「対立候補もみんなあいつの手に落ちた。選挙ではあいつが独走状態。頼れるのは外部から手を加えることのみ。分かっただろ?お前が必要なんだよ。まあ答えは明日聞く。同じ時間にここに来てくれ。それじゃ。」


 捲し立てるように喋ると、こちらに混乱する暇すら与えず男はこちらに背を向け何処かへと行ってしまった。

 


ーー男が去って数分、じっと考えるよりも足を動かしたいので少し残ったジュースを飲み干し店を後にする。


 はぁ、嵐のような出来事だった。訳が分からなすぎてむしろ冷静だ。

 時計を見るとまだ9時20分頃でカフェに入ってから数十分と経っていない割にはどっと疲れてしまった。


 なんで俺?倒すって何?その理由は?あの政治家は人を操ってどうするつもりなんだ?てかこんなの断るに決まってるだろ!明日は家に篭っといてやろうかな。

 俺にとってはどうでもいい話のはずなのに色々な考えが頭を巡ってしまう。


 嫌なことに巻き込まれたのかと悪い気分のまま歩き曲がり角に差し掛かった時ーー

ードンッ!

「「いてっ!」」

「「すいません、大丈夫ですか?」」


 反射的に謝る。

 ぶつかってしまった相手は誰だと恐る恐る目を上げると、そこには綺麗な女性がいた。

 首のあたりまで伸びた金の髪がよく似合う若い女性だ。


 「ふふっ、あ、すみません。ハモったのが面白くて…その…怪我はありませんか?」

 はにかんだ顔が可愛くてドキッとしてしまう。


 「僕は大丈夫です。すみません、不注意で…。」

 平静を保とう。

 変な人だと思われたくないし。

 そう考えながら言葉を紡ぐ。


 「こちらこそすみません。あの、今何かされてたんですか?」

 「えっ」

 雑談されると思ってなかったので面食らう。

 俺のその様子に相手は不思議がっている様子だ。


 「さ、散歩してました!」

 咄嗟にそう答えたが無駄に大声を出してしまった。

 こういいうのって後で何回も思い出して恥ずかしくなるんだよな〜。

 そう考えていると女性が口を開いた。


 「おぉっ、元気…そうなんですね。あの、私!今伝道活動してて…少しお時間ありませんか?これも何かの縁ですし話だけでも聞いてくれませんか?」


 さっきとは違う意味でドキッとする。そういう世界には明るくないのでどうしても抵抗感を持ってしまう。

 それに今はそんなことをしている余裕はないので好みのタイプだが渋々断らせてもらおう。


 「ごめんなさい!この後用事があるので!またの機会に!それじゃ!!」


 背中に女性の引き留めるような声を感じつつも早足で歩き出す。


 まっすぐ家に帰り玄関の扉を開ける。

 「ただいま〜。」母に声をかけたつもりだが返事がない。また鍵かけ忘れて買い物行ってるよ、そう思ったのも束の間ーー


 『やあ、おかえり。』


 冷たい声だ。

 リビングに入ると、そこにいたのはあの政治家だった。

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