第12話 深淵の制覇と、迷宮都市の胎動

 一千五百万円という大金を一日で手入れた僕はなんだか怖くなった。


 僕が手に入れた「領地経営」とスキルは現代においては、可能性に満ち溢れている。


 そして、異世界の品物をこれ以上こちらで売り買いしていれば、いずれ目をつけられる。だから、稼いだお金で多少の贅沢品を購入して、僕は軽トラを飛ばして那須の山へと戻った。


 助手席には、リアのために選んだ最高級のふかふかな毛布や、現代の「魔法」である家電製品が詰まっている。


 そして、軽トラに乗ったまま異世界への境界ゲートを越える。


「……領主様、おかえりなさいませ!」


 お揃いの作業着を着たリアが、農園の端で僕を迎えてくれた。


 ただ、どこか領地がいつもよりも不穏な気配がする。


 彼女の瞳も、領地の中心。


 『洞窟ダンジョン』をじっと見つめている。


 領地レベルが上がり、境界が拡張されたことで、あの禍々しい穴は今や領地の一部となっていた。


「リア、荷解きの前に……あそこを片付けてしまおう。僕たちの家の中にあんな不気味な穴があるままじゃ、ゆっくりできないからね」

「はい、領主様。……あの洞窟からは、とても古い、でも透き通った魔力を感じます。きっと、あなたの訪れを待っているのです」


 僕は『魔法の鎌』を握り直し、リアと共に洞窟の暗がりへと足を踏み入れた。


 ダンジョンの第一階層は、すでに僕の領地システムに取り込まれていた。


 始めて訪れてラットと戦った場所だ。


 本来なら潜むはずの魔物たちも、僕のレベルが上がったことで、威圧に当てられたのか、姿を現すことさえせずに霧散していく。


 感覚が研ぎ澄まされている。暗闇の中でも松明なしで地形を鮮明に捉えていた。


「ここまでは領地の延長だね。……さあ、ここからが本番だ」


 緩やかな坂を下り、第二階層へと続く巨大な石門を潜る。


 そこは、第一階層とは打って変わって、湿った土の匂いと、地響きのような唸り声が満ちる異空間だった。


 ズゥゥゥン……。


 大気が震えた。


 前方の地面が爆発したかのように弾け、そこから巨大な「壁」のような影がせり上がっていた。


 それは、並の魔物とは比較にならない巨体を持つ、岩石のような外殻を纏っていた。


大土竜グランドモグラが出現しました。ダンジョンの主としてあなたを排除しようとしています』


 システムの知らせと同時にその巨大な鉤爪は、一振りで岩山を粉砕する。


 金色の瞳が侵入者である僕たちを射抜く。


「グルゥゥゥ……ッ!!」


 地響きと共に大土竜が突進してくる。

 巨体に見合わぬ疾風の如き速度。だが、レベルが上昇した僕の敏捷性は、その突撃さえもスローモーションのように捉えていた。


「リア!」

「はい、お任せください!……地を這う精霊たちよ、不遜な牙を縛りなさい!」


 リアが凜とした声で呪文を紡ぐ。大土竜の足元から、鋼よりも硬い茨のツタが爆発的に噴き出し、その巨体を一瞬で絡め取った。


「グガッ!? ガアァァァ!!」


 もがく巨獣。だが、領内であるこのダンジョンでは、僕にバフがかかっている。


 僕の魔力を受けて強化されたリアの植物魔法は、金剛不壊の如き強度で大土竜を地面に縫い付けた。


「いい子だ、リア。……これで終わりだ」


 僕は一歩、踏み込んだ。巨象の如き剛力を鎌の刃に集中させる。

 青白い魔力が鎌から溢れ出し、洞窟全体を昼間のように照らし出した。


「はぁっ!!」


 一閃。


 魔法の鎌が描いた弧は、大土竜の堅牢な岩の甲殻を、まるで熟した果実のように容易く両断した。断末魔の叫びすら上げる暇もなく、第二階層の主は光の粒子となって霧散していく。


 その後に残されたのは、これまでに見たこともない巨大な結晶体と、黄金色に輝く奇妙な鍵だった。


 静寂が戻った洞窟の奥底。


 突如として、僕の頭の中にこれまでで最も荘厳な、世界そのものが震えるようなシステムメッセージが響き渡った。


『通知:領地内ダンジョンの最深部を制覇しました。踏破報酬を付与します』


『あなたは、この迷宮の真の所有者:【ダンジョンマスター】として認められました』


『領主スキルの権能が進化します。これより、あなたは領地をただの農園ではなく、魔力を動力源とする【迷宮都市】として構築、運用することが可能になりました』


 その瞬間、僕の足元から眩い黄金の光が広がり、洞窟の壁を、天井を、そして領地の境界線を塗り替えていく。


『条件達成:領地レベルが上昇しました。Lv.2 → Lv.3』


『領地レベル3特典:【境界の再定義】を執行。領地範囲を那須連峰の特定区画まで大幅拡大。迷宮からの資源自動回収機能、並びに「転移門(ゲート)」の多地点設置が解放されました。侵入者を迷わせる幻覚結界設置可能』


「迷宮都市……幻覚結界?」


 僕は、自分の手のひらに宿る、都市一つを自在に操れるほどの絶大な権能を感じていた。


 これまでは、この山を「隠れ家」だと思っていた。けれど、システムは僕に、ここを世界で唯一の、現代文明と魔法が融合した「理想郷(国家)」にしろと言っているのだ。


「領主様……。私、見えます。この洞窟が、もっとたくさんの光で満たされて、街になっていく未来が……」


 リアが僕の手を握り、瞳を潤ませて微笑んでいる。


 彼女にはシステムが見えていないはずだが、何か感じるのかもしれない。


 ステータスに新たに、称号が追加された。


 称号:迷宮都市の主


「……行こう、リア。僕の能力がレベル3に上がったんだ、屋敷を建てよう」

「はい、領主様!」


 悪戯っぽく笑う彼女と僕は新たな計画を練り始める。

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