回復一家の少女 4

 順番に適正検査が行われ、終わった者は教会の中で騎士団への入団手続きや申請、親に報告、帰り便の待機とそれぞれの行動を取っていた。

 そして最終盤、セレニテ一行の番が来た。

 ドールは光属性、テイランは炎属性だった。

 「さぁ、皿に乗った一切れを食べて、手を伸ばして」

 赤いクロスが敷かれた長机の上にある皿には、十切れの《アンダイン》の果実が乗っていた。切り方はリンゴのような形だった。

 アミは一瞬躊躇う素振りを見せたが、覚悟を決めたように果実を口に運ぶ。

 刹那、血管という血管から淡い光が漏れ出し、血液がどう体を循環しているかが鮮明に分かった。体に少しの浮遊感を覚える。

 光が収まり、言葉では言い表せないほど微量の体の変化を感じながら、徐に手を《アンダイン》に向かって突き出す。

 息をゆっくり吐いて、血を心臓から全身に巡らせるイメージから、肩から指先までを一筋に走る線を意識して目を閉じると…。

 「……あぁ!」

 変化に気付いたセレニテが声を上げた。

 《アンダイン》の葉の間から水滴が落ちてきて、数が増え、やがて小雨になって大地に降り注いだ。

 「水属性かぁ…魔力も大したことなさそう」

 「そんなことないですよ。むしろ平均より少し上くらい。十八歳なんて鍛錬もなければ経験もないし、大抵こんなものです」

 自分の手を見つめながら落ち込む様子を見せたアミの肩を、ビエールが優しく叩く。

 「アミ!明日ウチ来て!」

 「水やりねハイハイ。もー、毎日どうせ行ってるでしょうが」

 セレニテが意図してやったわけではないが、自分の非力さと予想を外したショックで軽く落ち込んでいたアミの気持ちが和らいでいく。

 アミはつくづく、自分は捻くれているなと思う。卑屈というか、何というか。

 なりたい属性があったわけではない。

 自分が強い魔力を持っていると期待したわけでもない。

 なのに落ち込む。

 「そのままでいてほしいな…」

 呟く。

 セレニテは良いところをすぐに見つけようとする。嫌なことを言わないし、励ますつもりがなくても彼女の純粋無垢なパーソナリティがよく沁みる。周りが明るくなる。

 魔族と戦うために〜なんて、セレニテに求めるのはお門違いだったみたいだ。

 「次は俺か…」ユルレパボパ

 なんだか浮かない様子の赤髪。

 「ツンツン赤髪君!」

 「…なんだそれ」

 睨まれても怯まず、セレニテはニカっと笑って、

 「だって名前教えてもらってないもん」

 と頬を膨らませる。

 「ユルレだ。あんまり好きじゃないんだ名前」

 「えー、可愛い名前!」

 「だから嫌いなんだよ」

 「可愛いから良いって言ってんのに」

 「………」

 「ーーーぷっ」

 アミが吹き出すと物凄い形相で赤髪改めユルレが睨んできた。ごめんごめんと右手であしらいながら涙を拭く。だいぶ慣れてきた様子だ。

 ユルレは果実を一口で食べ切り、手を突き出した。

 その一瞬だった。

 「ーーーーーーーッ!」

 《アンダイン》全体が、業火に包まれて燃え始めた。直前のテイランはせいぜい枝の一つが燃えて落ちる程度だったのに。

 パチパチと火花が散る音だけが聞こえた。

 その場にいる全員、教会にいた人は窓から体を覗かせてその惨劇を見ていた。呆気に取られて、空いた口が塞がらない。

 シスターも弱々しい声を漏らしながら静かに腰を落とした。彼女にとっても初めての光景だったのだ。

 「……俺かよ」

 ユルレはそう、残念そうに言った。黒い瞳孔に映る揺れる炎。どこか視線は遠くへ。

 一頻り燃えた後、見ると《アンダイン》の葉は完全に燃え尽きて、ただの裸の大木がそこに聳えていた。

 「えーっと、あ、あはは。これは流石の《アンダイン》でも時間かかるーーかなー」

 《アンダイン》は不滅の木。どれだけ燃やされたり斬られたりしても、根さえ残っていればいくらでも再生する。

 ただ現状を見る限り、すぐに復活というわけにはいかなさそうだ。

 「あの…もしかして…あなたの名前って」

 アミが尋ねた。

 「ユルレ=パボパ」

 「ぱ、パボーーーはぁっ!」

 苗字を聞いたシスターは飛び起きて姿勢を正した。

 「こっ、ここここここ」

 動揺で口が動かない。寒い時に起きるシバリングのようになってしまっている。

 「え、なに?ツンツン君有名人なの?」

 アミはセレニテのほっぺを両手で挟むようにした。セレニテの顔がグシャっと潰れる。

 「パボパよ!炎の騎士団団長の!フラム=パボパ様と同じ苗字なの!」

 

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