幸せのBAD END

たかと

序章 回復一家の少女

回復一家の少女 1

 矢を番え、弦を引っ張り弓を構える。

 背中を曲げないように意識しつつ、狙いを外さないように目を薄める。

 「ふぅー…」

 セレニテは息を整える。

 的の中心に塗ってある赤い丸が、丁度視界の矢の先を重なった時に指を離して矢を放つ。

 空気を切り裂いて真っ直ぐ飛んでいった矢は、中心から右にズレた位置に突き刺さった。惜しいという次元ではない。大外しだ。

 「あーあ。また右側だ」

 セレニテは項垂れるように肩を落としてため息をついた。さっきまで集中していた雰囲気はどこへやら。艶のある銀髪が柔風に揺れる。

 「おーいセレニテ!そろそろ出発の時間だから準備してー!」

 「うんアミ…分かったー」

 彼女は幼馴染のアミ。どこか抜けていて天然チックのセレニテにとって、かけがえのない友達であり姉でもある存在だ。

 「あっ、また弓の練習してるの?懲りないわねーアンタ。見なさいよ、あなたの的、右側だけ異常に刺さった跡があるの」

 確かにセレニテの的の左側は新品のように綺麗で、反対に右側は何か自然災害が起きたのではないかと錯覚するほど跡だらけになっていた。

 でも跡の数を見る限り、とてつもない数の練習をこなし続けているのが窺える。

 「絶対私のせいじゃないもん。的の前だけ右に風吹いてるよ。ビューって」

 「いやいやあんたねぇ…言い訳にも程があるわよ」

 「だってなんか弓を使うと落ち着くんだもん…なんか手にしっくりくると言うか…」

 「しっくり来てない感じだけど?」

 その煽りに対してセレニテは柔らかい頬っぺたをぷくーと膨らませて。

 「じゃあめちゃくちゃ左狙ってみるよ⁉︎」

 セレニテはもう一度弓を取り、矢を放った。

そして見事に…右側を射抜いた。

 「ほら、ね⁉︎」

 「………」

 「あいたっ」

 無言で頭を叩かれてしまった。

 「なんで弓なの?剣とか、杖とか、武器を使わなくたっていいじゃない」

 アミの質問に対して、セレニテは自信満々に答える。

 「今から私水属性の魔法を発現するでしょ?そしたら矢に纏わせてかっこいいかなって!ブルルン!ピューン、チュドーンみたいな!」

 「あなたもう十八なんだから、その小学生みたいな表現やめなさい。擬音が多い!オノマトペレニテ!」

 「ん?どういうことなの?」

 「この子本ッ当に……ッ!」

 天然というか、愛すべきアホというか何というか。アミは頭をグシャグシャと掻いてから一拍置いて。

 「今から教会にいって魔法の属性を確定するのはそうだけど、なんで水属性って分かるのよ」

 王都ラストから数百キロ離れたこの村だけでなく、人間界における常識。子供は十八歳になったら教会にいって魔法適正診断を受ける。

 その際に発現した魔法の属性を、これから一生使い続けることになる。その魔法以外、使えない。

 属性は全部で七種類。

 火、水、風、雷、土、影、回復の七つだ。

 「分からない。けど水がいい!水やりも楽になるしね!」

 「魔族を倒すためーとかが殆どなのに、この子は一切その気がないのが怖いわ」

 「なんか言った?」

 「ううん、何も」

 もう一つ、人間界における常識。

 魔族は、人類が滅ぼすべき凶悪な種族。

 そう教えられない子供はいない。

 実際、人類は数百年に渡って魔族と戦ってきた。十八歳で魔法適正検査を受けた後は、王都ラストにある各属性の騎士団に所属し、人類のために魔王討伐を志すのが一般的だ。

 もちろん、アミもそのつもりだ。

 それに対してセレニテはというと……。

 「わぁ!もう黎明米の芽が出てる!ふわぁー、楽しみっ!」

 我関せず。隣の芝は隣の芝。考えてないし、そもそも興味がない。現状や歴史を知ってはいるが、育てている農作物が元気に育ち、村の皆んなで美味しいものが食べられればいいと思っている。

 頭の中がお花畑というよりかはただの畑だ。

 「ほら教会行く馬車が出ちゃうから、水属性になりたくないの⁉︎」

 慌てるようにアミがセレニテの手を引っ張って行く。

 その様子を見ていた村の大人たちが、何やらコソコソ話をしていた。

 「そっか、今日が魔法適正検査の日ですもんね」

 「あれはアミちゃんと、セレニテちゃん?」

 「あぁ、あのデジール一家の?可愛いわよねセレニテちゃん。いっつも水魔法が使えるようになったら水やりの時呼んでーなんて言っちゃって。うちの主人水属性なのに」

 どうやらセレニテはこの村では人気者らしい。太陽のように明るい性格と、純粋無垢な彼女は、村の皆から愛されている存在みたいだ。

 「可哀想にねぇ」

 女性が頬杖をついてそう言った。

 「なんで?」

 「あらあなた知らないの?」

 女性が続けて残念そうに呟いた。

 「デジール一家は代々、回復魔法しか発現しないの」

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