弱小領地から始めるSRPG攻略~破滅確定の悪役貴族、最強ユニットを青田買いして無敵の国家を造りあげる~

厳座励主(ごんざれす)

第1章 アルディオ平原侵攻戦

第1話 憧れの世界に来れたと思ったら

 ――ガシャン!


「クロム! どうしたんだ、クロム!」


 酷い耳鳴りの奥、誰かがの名を呼ぶ。


(……俺?)


 いや、呼ばれたのは俺じゃない。

 だって俺は、どこにでもいる普通の日本人で。

 なのに、今の名前は……。


 混乱し、明滅する視界。

 その端に、光を反射するものがあった。

 床に落ちて割れた卓上鏡。

 さっきの音はこれだったか。


「え……」


 焦点の合わない目で、それを見る。

 鏡の中には、見覚えのない男。


 線が細く、白い肌。

 ダークグレーの髪が額にかかり、切れ長の目はひどく感情が薄い。

 美しいが、血の気の通わない。

 まるで人形みたいな雰囲気のイケメンだ。


(誰、だ……?)


 そう思った瞬間、答えが同時に浮かぶ。

 先ほどの『見覚えの無い』という言葉は取り消しだ。

 俺はこの男を知っている。


「な……んで……!?」


 息が吸えない。

 視界が白く滲み、鏡の中の自分の顔もぼやけていく。

 俺はそのまま、意識を手放した。




------




「ん……」


 静かにまぶたを開く。

 木造りの天井が見えた。

 俺はゆっくりとベッドから体を起こし、周囲を見た。


「ここはもしかして……」


 とあるゲームの、とある場所によく似ている。


 それは、大人気SRPG『ブレイブ・エンパイア』。


 勇者となって王国軍のリーダーを務め、仲間ユニットを集め、戦場を制し、領地を広げていく。

 俺はそのゲームを、ただ遊んでいたわけじゃない。

 攻略情報を洗い、数値を検証し、まだ誰も導き出していない最適解を詰める。

 それくらいには、やりこんでいた。


「――やっぱり、クロムになってる……!」


 姿見の前に立った俺は、愕然とした。 

 大好きだったゲームの世界に入って、キャラクターとして生きる。

 それ自体はめちゃくちゃ嬉しい。

 世界中のゲーマーの憧れみたいな出来事だろう。

 だが……。

 

「なんで、よりによってコイツなんだよ……」


 クロム・フォン・バルダッド。

 ブレイブ・エンパイアに最序盤から登場する敵キャラだ。


 ステータスは一般兵以下。

 いわゆるかませ犬。

 しかも、キャラ性能以上の問題がある。

 それは……背負っているだ。


 クロムの父が現領主であるバルダッド家の領地は、べらぼうに貧しい。

 常備兵はゼロで、有事の備えもない。

 屋敷は修繕が追いつかず、あちこちヒビ割れてボロボロ。

 使用人も一人だけ。


「SRPGじゃ致命的だよなあ……」


 この世界で生き残るには、あまりにも条件が悪すぎる。


「目を覚まされましたか?」


 抑えた声が、扉の方から聞こえた。

 反射的に視線を向ける。

 部屋の入口に、一人の少女が立っていた。


 淡い色のメイド服。

 きっちりまとめられた桃色のポニーテール。

 整った顔立ちだが、表情は硬い。

 

「リリか……」


 リリ・ピリアスター。

 我が家のたった一人の使用人だ。

 俺が名を呼んだのを聞いて、リリは身体を強張らせた。


「は、はい。解雇でしょうか。それとも、仕置きを……?」

「あ、いやっ、違うんだ」


 顔面蒼白といった様子のリリに、俺は慌ててぶんぶん首を振る。

 そうだった。

 確かこのリリというキャラクターは、俺のことを恐れているのだ。


「水! そう、水が欲しかっただけなんだ」

「はっ! 気が利かず申し訳ありません、今すぐお持ちします」


 リリは一瞬だけ肩を震わせ、それから慌てて駆けていった。

 しばらくして戻って来たリリ。

 水の入ったグラスを持っている。

 それを差し出す手も、わずかに震えがあった。


「ありがとう」

「ひうっ!?」


 ガッシャ―ン!

 本日二度目の破砕音。

 受け取ろうとした瞬間に、リリが手を離してグラスが落ちた。

 

 あー……。

 これは、アレだな。

 「ありがとう」って言ったことに対して「クロム様がお礼を!?」ってビックリしたんだ。


「も、申し訳ございませんっ!」


 そんなことを考えている間に、リリはゴツンと床に額を打ち付けていた。


「え、ちょ、そんなことしなくていいって! ちょっと、ストップ!」

「べ、別の自傷をお好みでしょうか?」

「違う! 違うから! 何でポケットからすぐナイフが出てくんの!」


 手首にナイフを当てようとするリリを、俺は必死に羽交い絞めにした。

 一見彼女が異常っぽく見えるが、これはクロムという主人に適応した結果だ。

 気まぐれな叱責に理不尽な暴力。

 改めて振り返ってみても、最悪な主人だな。


「落ち着いた? もう下がっていいよ」

「は、はい……」


 リリはほっとしたように一礼し、すぐに数歩下がった。

 そして思考を整理する間もなく、扉が勢いよく開かれる。


「――クロム!」


 入ってきたのは、壮年の男だった。

 がっしりとした体格に質素な服。

 白髪混じりの黒髪と深い皺。


「グレ……いえ、父上」


 彼こそ俺の義理の父親であり、バルダット領の現領主。

 グレン・フォン・バルダットだ。


「無事でよかった。突然倒れた時は、肝を冷やしたぞ」

「すみません、少し疲れが出たようです」


 そう答えると、グレンは一瞬目を見開いた。

 が、すぐに元の表情に戻ってため息をつく。


「ああ、今は無理をするな」


 グレンはそう言って、俺の顔を覗き込んだ。


「幸い、王国軍ももう虫の息だ。三ヵ月後の侵攻で、戦争も終わるだろう」

「そうですか、三ヵ月後…………えっ」


 思わず間の抜けた声が出てしまう。

 王国軍が虫の息?

 戦争が終わる?

 嫌な予感が背筋を這いあがる。


「ち、父上。その侵攻というのは『アルディオ平原』のことですか?」

「ああ、そうだ。連合を組んで平原を一気に侵攻し、王城まで攻め込むらしい」


 返って来た答えに、愕然とした。

 原作でも、ゲーム開始直前はそうだった。

 帝国軍に敗北続きで、崖っぷちの王国軍。

 帝国側の最後の攻撃――『アルディオ平原侵攻戦』により、戦争は終結するはずだった。


 そこに現れたのが、王国軍の若きリーダーとなった勇者プレイヤー

 彼の活躍によって帝国軍は大敗。

 帝国側として参戦していたクロムは、この敗戦をきっかけに破滅へと転がり落ちる。


「……時間が無い」


 思わず、声が漏れた。

 グレンはそれを、単なる独り言だと思ったのだろう。

 軽く頷き、穏やかな声で続ける。


「三ヶ月もあれば体調は良くなるだろう、今は休め。その戦いが終われば、お前が戦争に行く必要も無くなる。平和な世界が訪れるんだ」


 違う。

 そこから始まるんだ、このゲームは。


「それでは、私は職務に戻る。安静にして――」

「――待ってください、父上」


 部屋を出ていこうとするグレンを、俺は呼び止めた。


「剣を取ってください。をしましょう」


(三ヵ月後の戦で、俺は破滅する。……それまで、思いっきりあがいてやる)




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あとがき

 第一話をお読みくださり、本当にありがとうございます。

 少しでも面白ければ、ぜひ★評価や作品フォローをよろしくお願いします……!

 

 次回:グレンとの強化特訓!

    そしてメイドのリリと急接近!?

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