SS集:墓標群

玄 麻衣

一人墓地

私はこの生涯を一人で生きてきた。


私には親がいたそうだ。

しかし親は早くに年老い死んだ。

記憶などない。墓の姿しか見知っていない。

だから、この墓標が私の親だ。


私には親友がいたそうだ。

だがその人は働くこともせず飢えて死んだらしい。

記憶などない。墓の姿しか見知っていない。

だから、この墓標が私の親友だ。


私には婚約者がいたそうだ。

だがその人は何かを患い死んだらしい。

記憶などない。墓の姿しか見知っていない。

だから、この墓標が私の恋人だ。


だから今日も、三つの墓に水と供え物をやる。

意味があるかは知らないが、交友関係などそんなものだろう。



今日、恋人の墓が移動になるらしい。

近しい所から離れるのは面倒だが、墓参りを欠かすわけにはいかない。

ある意味引っ越し記念日であるし、少し豪華な供え物を持っていくことにした。

新たな所有者の所でも、丁重に扱ってもらえればいいのだが。


*


今日、親友の墓が一段と乾いていた。

状態を見るに、管理ができていなかったのだろう。

仕方なく、水をかけてやる。

すると親友の母親が怒って私を追いかけてきた。

何故だろう。

墓参りをするのは当然なのに。


*


今日、親の墓が汚れていた。

供え物のチョイスが悪かったのか、食い荒らされた痕跡が残っている。

これからはゴミが出ない供え物を渡さなければ。

そう思いながら墓石を磨き、ゴミを掃除する。

頭にゴミが当たる。

カラス共の悪戯だろうか?


*


恋人の墓石が壊れてしまったと連絡があった。

私はとても悲しく、しかし仕方ないと思った。

三つの墓の中で、一番若いはずなのに、一番ボロボロだったから。

倒れた墓石を看取り、新たに頑丈な墓石を建ててもらうことにした。


*


親友の墓石が壊されたと連絡があった。

犯人は親友の母親らしい。

私は怒りに満ちて母親を問い詰めるが、

頭がおかしいのか、と言われて話にならない。

墓石を整備するのは親の務めであると思うのだが。

仕方が無いので、恋人の墓の隣に、新たに頑丈な墓石を建ててもらうことにした。


*


私の目の前で、親の墓が崩れ落ちてしまった。

私は茫然とし、涙を流した。

三つの墓の中で一番老いているとはいえ、こうも容易く壊れるのか。

仕方なく、恋人と親友の墓の隣に墓石を建ててもらおうとしたのだが、

業者はそれはできないといって止める。

曰く、先祖の墓と同じ所に埋めるそうだ。

まぁ。仕方ないか。

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