カオナシ
綾野祐介
第1話 江里菜①
「ねぇ、あのうわさ聞いた?」
私の名前は江里菜、県内有数の進学校の二年生だ。
そして私に興奮気味に話しかけてきたのは知佳。知佳は怖いものが大好きな同級生だ。
ただ知佳が少し変わっているのは実話というか実体験を本人から聞くことを信条としている体験派だった。
体験派ということは聞いた話を現場に行って確認しないと気が済まない、というとても迷惑な友人だった。
「聞いてない」
「もう、江里菜はいつもそう言う」
「だって知佳と違って私は怖い話が苦手なんだもの」
「誰が怖い話って言った?」
「えっ、違うの?」
「違わないけど」
「やっぱり。何の話かは知らないけど聞いてないし聞く気もないわ」
私は本当に怖い話が苦手だ。
苦手なのには理由があるのだが、その話は知佳にはしていない。
好奇心で私の過去をあれこれ詮索されては堪らないからだ。
「冷たいわね。でもそう言いながらもいつも付いてきてくれるのが江里菜なんだよねぇ」
そうなのだ、知佳一人で危ない場所に行かせるわけにもいかない、ということでいつも一緒に行かざるを得なくなってしまうのだ。
「今回は行かない」
「えっ、なんで?」
「嫌な予感がするのよ」
「江里菜の感は当たるからなぁ、となると」
「行くのを止める?」
「絶対に行く」
そうなのだ。江里菜が悪い予感がすると言った時は本当に怖いことが起きる確率が高いのだ。
そんな好機を知佳が逃す筈がなかった。
「明日の土曜日は暇だよね」
「バイトは無いけど」
「うん、知ってる。今日はうちに泊まりなよ」
「嫌よ、一晩中怖い話をして寝かせないんだから」
いつも知佳の家に泊まる時はホラー映画観賞会になるか知佳の仕入れた怪談を聞かされるのが常だったのだ。
結局断り切れずに江里菜は知佳の家に泊まることになってしまう。いつものことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます