ぷにぷに短編集

@punipuni_0123

海の呼吸

海は、いつも同じ呼吸でそこにあった。


砂に腰を下ろし、私は波の行き来を眺めている。泡が砕け、引いていくたび、胸の奥のざわめきも一緒に遠のいていく。時間は確かに流れているのに、ここだけは留まっているようで、心が静まる。


「なにしてるの?」


背後から声がする。振り返らずに答えた。


「海を見てるの」


「ふーん」


私は砂を掘り、貝殻を拾い上げる。

白い縁、淡い桃色、欠けた螺旋。どれも、かつて生きていた証だ。


「貝が綺麗だなって。拾って集めてるの」


「ただの死骸でしょ」


思わず笑ってしまう。


「ふふ、あまのじゃく。

綺麗だよ。いちばん綺麗なの、あげる」


手のひらにのせた一枚を差し出す。彼は渋々受け取り、光に透かした。


「……意外と、綺麗だな」


胸の奥が、静かにほどける。少しだけ間を置いて、私は言った。


「本当に美しいものは、目に見えないの…」


「……そんなもんでしょ」


私は貝殻を袋にしまいながら、言葉を重ねる。


「綺麗なものって、なんだろう」


「さあ、知らないよ」


波が一段強く寄せ、また引いていく。


「貝殻、アルバム、ぬいぐるみ……私の中に残った記憶の欠片から、綺麗なものを探しているの」


「見つかった?」


「……足りなくて。私が見た中で綺麗だと思ったものを、いくら集めても、どこか空虚で」


沈黙が落ちる。彼は何も答えない。


「…わかったの」


私は海から目を離さずに続けた。


「全部、あなたが持っていてくれたんだね」


彼は、やはり何も言わない。


「先に生きて、預かっていてくれていたんだね。……ありがとう」


彼の掌の中で、貝殻がかすかに鳴った。潮風がページをめくるように、私の時間を前へと押す。


海は相変わらず、同じ呼吸でそこにある。

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