第5話 宿屋での夜と装備購入
懐が温まった俺たちが向かったのは、大通りの裏手にある武具店だった。 所狭しと剣や鎧が並ぶ店内。油と鉄の匂いが充満している。 俺は迷わず、店の一番奥にあるガラスケースの前へと歩を進めた。
「親父さん、これをくれ」
俺が指差したのは、装飾の少ない、しかし刀身が青白く輝く細身の剣だった。 隣にいたシルヴィアが息を飲む音が聞こえた。
「ジン、それは……」
「『白銀のレイピア』。ミスリル銀の合金で、軽くて強靭だ。君の剣技には、今の重たい鉄の剣よりこっちの方が合う」
俺は淀みなく説明し、カウンターに銀貨を積み上げた。 店主が驚いた顔をするが、金を確認するとニヤリと笑って鍵を開けた。
「いい目をしてるな、兄ちゃん。こいつは掘り出し物だ」
俺は受け取った剣を、そのままシルヴィアに手渡した。 彼女は呆然としている。受け取る手が震えていた。
「どうして……私がこれを欲しかったとわかった?」
彼女が信じられないという顔で俺を見る。 当然だ。この世界線では、彼女はこの剣を一目も見ていないのだから。 だが、俺は知っている。 実はこの店に来る前、俺たちは一度別の店に行き、何も買わずに宿へ向かった時間軸があった。その時、通りがかりにこのショーウィンドウを見つめ、彼女が悲しげに溜息をついていたのを俺は見逃さなかった。 「今の稼ぎでは手が出ない」と諦めていた彼女の横顔を記憶し、俺はロードしたのだ。 そして換金率を上げて資金を作り、この店に直行した。
「言っただろ、勘がいいって」
俺は短く答える。 シルヴィアは剣を抱きしめ、潤んだ瞳で俺を見つめた。
「お前は……私の心の中まで覗いているのか?」
「さあな。それより、装備を整えたら宿に行こう。疲れた」
俺は彼女の感謝の言葉が長くなる前に店を出た。 宿屋では、二つの部屋を取った。 夕食を終え、それぞれの部屋に戻る際、シルヴィアが俺の部屋についてきた。 彼女は新しい剣を腰に差し、その感触を確かめるように柄を撫でている。
「ジン、少しだけいいか」
部屋に入ると、彼女は扉を閉め、俺に向き直った。 真剣な表情だ。
「改めて礼を言わせてくれ。命を救われただけでなく、こんな過分な品まで……。私は、お前にどう報いればいい?」
「報いるなんて大袈裟だ。パーティの戦力が上がれば、俺の生存率も上がる。投資だよ」
俺がそっけなく答えると、彼女は少し困ったように眉を下げ、一歩近づいてきた。 ふわりと、森の香りと石鹸の香りが混じった匂いがした。
「投資、か。……お前はいつもそうやって、合理的な理由をつけて私を甘やかす」
彼女の手が伸びてきて、俺の腕を掴んだ。 そして、そのまま身を寄せてくる。 柔らかい感触が二の腕に押し当てられる。 見上げれば、彼女の顔がすぐそこにあった。耳まで赤くなっているが、視線は逸らさない。
「私はエルフだ。一度受けた恩義は生涯忘れない。……私の剣は、これからはお前のために振るうと誓おう」
彼女は俺の腕に頬をすり寄せた。 キスをするわけではない。ただ、体温を分け合うように、俺の存在を確かめている。 その仕草は、孤高の女戦士が見せる精一杯のデレだった。
俺は『鑑定』を発動する。
名前:シルヴィア 好感度:92
ほぼカンストだ。 彼女の中で俺は、もはや「他人」ではなく「運命の相手」に近い位置づけになっている。 俺は彼女の銀髪に触れ、軽く撫でた。彼女は心地よさそうに目を細める。 この温もりも、信頼も、すべて俺が計算し、ロードして選び取った結果だ。 だが、悪い気分ではない。 俺は明日からの攻略計画を頭の中で練り直しながら、彼女の体温を感じていた。
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