デブスと言われて育ったけれど、君にとっては可愛い女の子だった

第1話

【千笑】

私の姉は綺麗な人だった。小学四年生で身長は160㎝を超え、家族で原宿を歩いた時は、芸能事務所の人からたくさんの名刺を渡されていた。

小学五年生で姉はモデル事務所に所属し、一躍人気小学生モデルになった。


「美麗ちゃん、小学生とは思えない程大人っぽくて、綺麗!」

「服の着こなしも上手ね、あの子はもっと綺麗になるわ!」


人当たりも良く、いつだって笑顔を絶やさない。芸能界でも愛される、腰の低さを演じる姉、美麗。人々は、姉の外側の美しさにどんどん惹かれていった。

それと同時に、私への八つ当たりも激しくなっていった。


ドカッ


姉が家に帰ってくると、必ず私のお腹を蹴る。痛い、助けてと言っても、助かった試しはない。


「お前みたいなブッサイク見てるとムカつくんだけど!」

「っ・・・ごめ、ごめんなさい・・・」

「しゃべるな。声も聞きたくない、気持ち悪い」


姉の気が済むまで、私はお腹や背中を蹴られ続ける。


「あの編集者・・・マジキモイ!あいつ、あたしのお尻を触ってきやがって・・・」


早くこの時間が終わればいい。早く姉の気持ちが収まればいい。

そんなことを考えながら、私は姉のサンドバッグになることを受け入れていた。

モデルの業界は、プロデュースをする男性に気に入られないといけないらしい。

その為に、姉は必死に自分を売り込み、時にはセクハラも許容しているようだった。

痛い。蹴られたくない。

だけど・・・思ってしまった。

私をサンドバッグにすることで、姉の気が済むのなら。

姉の気持ちが落ち着いて、またモデルの仕事を頑張れるのなら。

それなら、私は受け入れよう、と。


「あ゛ー!蹴り疲れた!お母さん、スムージーできた?」


姉は蹴り疲れると、階下のリビングへ向かった。

私はゆっくりと体を起こして、自分の部屋に入り、ベッドに寝転んだ。

枕元に置いてある本を開き、活字を追うことに集中した。

今読んでいるのは、異世界転生した女の子のラブロマンス小説。この小説の主人公は、チートで最強の炎魔法を手に入れた。その魔法を使って、困っている人を助け、皇室の護衛騎士にも引けを取らない強さ。

私には出来ない・・・芯のしっかりした強い女性が、羨ましい。

私も、こんな風に異世界に転生出来たらいいな。姉のいない世界に。

もう、痛みを感じない世界に・・・

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