わからん殺しの遊戯王

ふわんだりぃず×がいちょう

　遊戯王の基本ルールにて、「通常召喚」は1ターンに1回という説明をしたが、「特殊召喚」においては回数制限がない。

　そのため、現代遊戯王においては、この「特殊召喚」を何度も行い、モンスターを展開していったり、強力なエースモンスターを召喚するといった動きが、基本となっている。

　となれば、対戦相手としては当然その「特殊召喚」をメタるようなカードによって、相手が好き勝手展開させないようにしたい。

　勿論、遊戯王にはこの「特殊召喚」によって効果が発動したり、そもそも特殊召喚をさせなくしたり、というカードが多数存在する。

　つまり、何かと「特殊召喚」は相手からの妨害効果を誘発しがちなのである。

　一方で、通常召喚の方を制限するような効果は非常に少ない。

　1ターンに1回しか行えないという制限上、そこを縛ってしまうとカードの展開が乏しくなり、ゲームとして成立しなくなってしまうからだと思われる。

　また、ゲームを大きく決めるような上級レベルのカードを召還する際はコストが必要となるため、そのコストが既に一定の制限を科していると見ることができる。

　あるいは、1ターンに1回しか行えないものなんか縛ってもしょうがない、という軽視の意味もあるかもしれない。

　が、しかし。

　この「通常召喚」を何度もやってしまう、ルール破りなデッキが存在するのである。

　それが【ふわんだりぃず】である。

　名前の雰囲気はかわいらしいが、その実態は実にかわいくない。

　テーマのモチーフは、北極から南極への旅をする「旅鳥」と、その旅の途中で出会った他の鳥たちである。

　そして、そのコンセプトは「本来は1ターンに1回しか行えない通常召喚を、カード効果によって何度も行う」というものである。

　これはルール上、「特殊召喚」ではないので、「特殊召喚」をメタるような妨害カードが全く刺さらないのである。

　また、エースモンスターである「ふわんだりぃず×えんぺん」は、特殊召喚された攻撃表示モンスターの効果を発動できなくするという強力な制圧効果を持っている。

　現代遊戯王は基本的にエースモンスターを特殊召喚で呼び寄せるため、実質エースの能力封印である。

　さらにこのカード、戦闘面でもポテンシャルが高く、戦闘時に相手モンスターの攻撃力・守備力を半減させてしまう効果を持っている。

　こうなると並のエースカードの攻撃力では正面突破ができない。

　やっとの思いで呼び寄せたエースモンスターで攻撃した瞬間、「えんぺん」の効果で返り討ちに合う、という「わからん殺し」は、きっと誰もが経験したことがある罠だろう。

　更にもう一つの特徴として、【ふわんだりぃず】は墓地をほとんど利用しないテーマでもある。

　現代遊戯王において、「墓地は第二の手札」という言葉もある程に、墓地はその重要性が高い。

　わざわざ自分から自分のカードを墓地に送る「墓地肥やし」という戦略もあるくらいだ。

　そのため、墓地の利用を妨害するカードはどのデッキにも強烈に刺さることが多いのだが、ふわんだりぃずにはその心配がほとんどない。

　その事を利用して、墓地メタとなるカードをデッキに多数投入し、相手に一方的な墓地使用制限を強いることもできてしまうのだ。

　極めつけは、これらの召喚による展開を、自分のターンのみならず、相手ターンでもやらかしてしまうことができるのである。

　その為、相手の行動に応じて展開を広げて逆に制圧盤面を敷き、相手の動きを邪魔することすらできてしまう。

　その事を知らないプレイヤーからしたら、「自分のターンなのに相手が好き勝手やっている」という意味不明さに困惑すること間違いなしだ。

　おかしい、ターンという概念どこへ行った。

　あーあ、遊戯王壊れちゃった。

　その対応のし辛さと制圧力の高さ、ターンを奪って勝手に動く害悪さから多くの決闘者からヘイトを買いまくり、いつしかつけられた蔑称が「害鳥」。

　かわいらしい見た目に反した、とてつもなくひどい名前である。

　しかし、遊戯王のルールを根本から捻じ曲げて戦うその異次元殺法は、まさに未知の世界からの脅威と言えよう。