彼女をNTRれたうえに車で跳ねられ、事故のお詫びに何でもすると言った運転手のお姉さんが実は……。

@beru1898

第1話 人生最悪の日

 俺は平凡な高校生、中田進一郎。


 取り立てて目立つ所はないんだが、実は付き合っている彼女がいるのだ。


 同じクラスの岡島里美。


 学年でもアイドル的存在で、めっちゃ可愛い子だったけど、隣の席になったのをきっかけに仲良くなりダメもとで告白してみたらなんとOKを貰ってしまったのだ。


 最初は夢かと思ったけど、正真正銘の現実でもう毎日が幸せでいっぱいだった。


 彼女とかそんなに欲しいとも思わなかったけど、やっぱり良いものだなって思い、日曜には出来る限りデートしたり、里美が手作り弁当を作ってくれて、昼休みに食べさせてくれたりと絵に描いたような青春を満喫していた。 



 そのはずだったんだが……。


「あーあ、掃除当番面倒臭いな」


 放課後に教室のごみ箱に溜まったゴミを校舎裏の集積所に運んでいき、そのまま放り込む。


 今日は里美も何か用事あるとか言っていたし、一人で寂しく帰ることになるのかって思いながら歩いていると、


「ん? っ!?」


 校舎裏の隅っこの方で男女が抱き合ってる姿を目撃する。


 おいおいこんな所でちゅーしているのか……と思ったら、長身の男子生徒に抱かれている女を見て、目を疑ってしまった。



(ま……まさか、あれは……)


 里美っ!? いや、そんな……でもあの後姿を見間違えるはずはない。


 え? どういう状況だこれ?


 自分の目に映っている光景が理解できず、しばらく頭が真っ白になってしまい、その場から動くことが出来ずにいた。


 あの子は本当に里美なのか……いや、そうとしか見えないんだけど、もしかしたら人違いかもしれないと思い、しばらく見ていると、



「ん……あ」


 ようやく二人が顔を離し、女子が視線に気づいたのか、俺の方を振り向く。


 彼女の顔を見て確定してしまった。


 間違いなく俺の彼女のはずの岡島里美の顔そのものだったのだ。


「何だよ、あいつ?」


「え、えっと……」


「ん? もしかして、あいつが里美の彼氏って奴?」


「う、うん……あ、あのね、進一郎。これは……」


「こ、これはじゃねえっ! ど、どういう事だよ、これはっ!?」


 目の前の光景が信じられず、我を忘れて、二人に詰め寄る、



「そのー……ゴメン」


「ゴメンじゃねえよ! その男は誰だっ!?」


「いや、実はさー。先週から付き合い始めてねー。バスケ部の三年生なんだけど」


「バスケ部の三年だと! お、おいお前っ!」


「ああ、もううるせえな。そいう事だよ。里美は俺と付き合い始めたんだ。文句あるか?」


「あるに決まっているだろうが!」


 見た所、長身でイケメンだが、そんな事はどうでも良いっ!


 こ、こいつが俺の里美を……。



「というわけでゴメンね。進一郎の事、嫌いになったわけじゃないけど、彼と付き合う事にするから」


 と、里美は頭を下げてそう言い、そのバスケ部の男と一緒に足早に去ってしまった。


「ふ、ふふ……何これ?」


 え? これはもしかして、寝取られって奴?


 嘘だよね? こんな現実があって良いのかよ……。


 あまりのショックで悪夢としか思えず、その場に崩れ落ちて、涙する以外なかったのであった。



 それからの事はよく覚えていない。


 学校には居られなくなり、いつの間にか通学路をフラついていたが、怒りや悲しみより裏切られたショックで何も考えることが出来なかった。


 これは夢か悪夢か……いや、悪夢だよな間違いなく。


 そんな事を考えながら、また怒りが湧いてきて、カッとなってしまい、あいつらにどうにか復讐してやれないかという考えが浮かんできてしまった。


 マジで許せん……里美の事、本当に好きだったのに、あいつがあんな尻軽女だったとは。




 そう考えながら横断歩道を渡った所で、


 キイイイーーーーーっ!


「へ?」


 ドンっ!


 右折してきた車にドンっとぶつかってしまい、そのまま気を失う。


「だ、大丈夫、君っ!? きゅ、救急車呼ばないとっ!」


 え? 何この状況?


 もしかして車に轢かれちゃったのか?


 は、ははは……何だよこれ。


 彼女にフラレた挙句に帰り道に事故に遭って、まさか死ぬのか?


 どんだけ悲惨な人生なんだよ……惨めすぎて、怒りすら湧いてこない。



「…………」


「ああ、良かった! 目を覚ました!」


「う……」


 女性の声で目を覚まし、ゆっくりと意識を覚醒させる。


 何処だろうここは? 目の前に居る女性は母さんか?


 ああ、今までのは夢だったのか。


「だ、大丈夫?」


「うん……ちょっと、変な夢を見たんだ」


「夢?」


「付き合っていた彼女が他の男と浮気しているの目撃してフラれてさ。その帰りに車に跳ねられたんだ」


 朧気な意識の中、夢の内容を口にしていくと、あまりの悲惨な悪夢に涙が出そうになる。


 夢とはいえ、酷すぎるよ……まるで救いがありゃしない。



「そうでしたか……本当にゴメンなさい。でも、もう大丈夫よ。ケガは大した事ないみたいだし、お医者さんもすぐに退院出来るって」


「そっか……ん?」


 病院? 医者? どういう事だ?


 まさか……


「はあっ!?」


「きゃっ!」


 ハッと起き上がり辺りを見渡すと、そこは見知らぬ部屋。


 え? 何処だよここは? 俺の部屋じゃないよな?




「め、目を覚ましたんですね。良かったあ」


「ふえ! あ、あのここは……」


「ここは病院ですよ。本当に申し訳ありません! 私の不注意であなたを車で……」


「あ」


 女性が深々と俺に頭を下げて謝ったのを見て、ようやく思い出した。


 そうか、俺、学校の帰りに車に轢かれて、それで……。


 って事は里美の浮気は夢じゃなくて、現実って事?



「はああ……マジかよ」


「そ、その……私のせいで、本当に大変なご迷惑を。お、お体の方はどうですか?」


「いえ、大したことないと思います」


「そうですか……あの時は私も頭が真っ白になってしまって、どうしようかと……」


 と、俺を車で跳ねたらしい女性がようやく頭を上げると、マジで泣いていたので、本当に悪い事をしてしまったと反省しているようだった。



(てか、若くて綺麗なお姉さんだなあ)


 彼女の顔を見てみると年齢は二十歳前後で、肩くらいの長さの金色っぽく染めた巻き髪をして、背も高くミニのスカートを履いたスタイルの良い女性でまるで、ファッションモデルのような容姿だった。


「本当にすみません。あの、これ私の連絡先なので、何かあったら……」


「あ、どうも。えっと、多分大丈夫だと思うので、あんまり気にしないでください」


 お姉さんが恐らく自分の携帯と自宅の電話番号、そして住所と名前が書かれたメモを俺に渡し、それを受け取る。




『大場葉月』


 それが彼女の名前のようだった。大場さんね。覚えておくか。


「あ、もう目を覚ましたんですね」


 彼女の渡したメモを見ている最中に、医者と看護師が病室に入ってきて、その後、色々と検査や診察を受けていく。


 そして、俺の親にも連絡が入って、すぐに病院に駆けつけ、警察官もやってきて色々と事情を聞かれ、バタバタしてしまい、しばらくゆっくり休めなかった。


 その後、検査の結果が出て軽い脳震盪と打撲。骨にも異常はなく、念の為、今日は入院する事になったが、次の日には無事に退院する事ができた。




「本当に申し訳ありませんでした」


「いえ……大した怪我ではなかったので」


 退院の際、車を運転していた葉月さんとその両親が俺と両親に深々と謝り、お袋も恐縮そうな顔をしてそう答える。


 一歩間違えれば命も危なかったかもしれないが、葉月さんとその両親も何度も謝罪し、その後、保険会社を通じて治療費なんかも払うと言ってくれたので、里美の奴もこれくらい誠意を持って謝罪してくれたらと逆にあいつに腹が立ってきた。



「あの……本当に何かあったら、すぐに言ってください。私、何でもしますので」


「え、ええ。わかりました。ご心配かけてすみません」


 葉月さんは涙ぐみながら、そう言ってくれたが、ちょっと大げさな気もしたけど、本当に悪い事をしたって思ってくれたんだな。


 彼女の誠意ある言葉にむしろ感激して胸が熱くなってしまい、両親の車で帰宅していったのであった。

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