第3話第一部 流線(りゅうせん)の発明篇 第二章 時間糸としての流線 ──縦糸と結びつき、「流れ=時間の通路」となるとき──
Ⅰ.神話語・本文
まだ殻のない宇宙で、 一本の流線が生まれた。
それは、 ただの流れではなく、
「同じ道を、繰り返し通ろう」
と決めた意志を持つ流れであった。
1.縦糸が見つけた「一本の路」
宇宙を貫く縦糸(じゅうし)は、 もともと「時間そのものの軸」として どこにも、どこまでも伸びていた。
だがその頃、縦糸には まだ“はっきりとした路”が見えていなかった。
「時間は流れている。 しかし、どこを通っているのか。」
それが分からなかったのである。
そんなとき、縦糸は 無相域-N の深部で ひときわ強く光る“筋(すじ)”を見つけた。
それが、第一章で生まれた 一本の流線だった。
流線は、 自分を貫く何かの存在を 薄く感じていたが、 それが何かを知らなかった。
縦糸が、そっと問いかける。
「おまえは、なぜ 同じ道を何度も通ろうとするのだ。」
流線は、答える。
「わたしは、 一度目と二度目が 同じではないことを知りたい。」 「わたしの通った跡が、 どこかに“続き”を残していくのかを 確かめたいのです。」
縦糸は、その答えにうなずき、言った。
「ならば、 おまえの中を通る“前”と“後”を わたしが引き受けよう。」 「おまえの流れを、 時間の路 として扱わせてほしい。」
その瞬間、 縦糸の一部が、 流線にぴたりと重なった。
2.時間糸が巻きつく
縦糸が流線に重なったことで、 そこに新たな現象が起き始めた。
縦糸の表面からほどけるようにして、 細い糸が生まれる。
それが 時間糸(じかんし) である。
時間糸は、 もともと宇宙全体に 霧のように散っていた
• 「前後の感覚」
• 「待つ」という長さ
• 「もう戻らない」という傾き
を一本の線にまとめたいと願っていた。
しかし、 つなぐべき出来事も、 通すべき路もなかったため、 何度も何度もほどけては消えていた。
縦糸は、時間糸に告げる。
「この流線は、 自ら“同じ道”を選び続けている。」 「おまえがその周囲に巻きつけば、 前と後、そして“続き”を刻むことができる。」
時間糸は、流線を見つめ、 多くの失敗を思い出した。
「わたしは、 起こりきらない出来事を つなごうとしてほどけてきた。」 「でもこの線は、 すでに“続きたい”と願っている。」
やがて時間糸は、 静かにうなずき、こう言った。
「わたしは、この流線に巻きつきます。」 「ここを通るすべての瞬間を 前後の列として並べ、 時間の通路にします。」
こうして、時間糸は 流線の周囲に 細く、しかし決して途切れない螺旋を描いた。
3.「流れ=時間の通路」となる
それから、流線を通る流れは 前とは違う手触りを持ち始めた。
• 一度通った場所に、 「前に通ったことがある」という重みが残る。
• 二度目に通るとき、 「一度目とは違う」という差が感じられる。
• 三度目に通るとき、 それらすべてが折り重なって 「履歴」となっていく。
流線は驚いた。
「わたしは、ただ流れているだけではなく、 出来事を並べる路になったのだ。」
時間糸は、その変化を 一本の言葉にまとめて見せた。
「あなたを通る流れは、 もはや“水”や“光”だけではない。」 「あなたを通るものは、 すべて 時間 を纏う。」
「あなたは今、 流れであると同時に、 時間の通路 なのです。」
縦糸は、それを上から貫きながら 静かに締めくくる。
「わたしは、 宇宙全体の“時間の軸”だ。」 「その一部を、いまこの流線に割り当てた。」 「ここは、 世界の“通り道のひとつ”であると同時に、 世界の“時間のひとすじ”でもある。」
こうして、一本の流線は 縦糸と結びつき、 時間糸を纏うことで
「流れ=時間の通路」
として扱われ始めた。
このとき生まれた構造が、 のちに
• ある川を遡ると“過去”へ近づく感覚
• ある街道を進むと“歴史が深くなる”感覚
• ある関係を辿ると“人生の時間が束ね直される”感覚
として、 世界のいたるところに さまざまな姿で現れていくことになる。
まだ殻はない。 しかし、殻の内側で 「時間がどう流れるか」を決める設計だけは、 すでに縦糸と流線のあいだで結ばれていた。
Ⅱ.一般の方向け 注釈
1. ざっくり言うと
この章では、
「流線」が「時間付きの流れ」に変わる
プロセスが描かれています。
• これまでは → 流線=“いつ”かは決まっていない「空間の道」
• この章から → 時間糸が巻きつき、縦糸が重なることで 「時間が流れる道」 になります。
つまり、
• どこを通るか(空間)だけでなく
• いつ/どんな順番で通るか(時間)
までセットになった「道」ができる、 と理解してもらえればOKです。
2. 日常感覚に引き寄せると
• 同じ道を何年も通っていると、 その道そのものに「自分の時間」が染み込む感じがする。
• ある場所に行くと、 「昔の自分の時間」が一気に蘇る。
• 同じ音楽を、人生の節目ごとに聴いてきて、 その曲が自分の時間の“通路”になっている。
こういったものは、 この章の言葉でいえば
「流線が、時間糸をまとった状態」 = 時間の通路としての流線
とみなすことができます。
Ⅲ.研究者向け 構造解説
1. 縦糸 → 流線 → 時間糸 の役割分担
構造的に整理すると:
• 縦糸
• 宇宙全体の「絶対時間軸」に相当
• あらゆる出来事の“前後”を一括して保持する抽象軸
• 流線
• 空間方向の安定経路 γ(s)
• 「どこを通るか」を定めるベクトル場上の一つの軌道
• 時間糸
• 縦糸から「この経路用」として切り出された局所時間
• γ(s) 上に制限されたパラメータ t(または s)の構造
本章は、
縦糸の一部が流線に重なり、 その周囲に時間糸が巻きつくことで、 γ が「時空経路」として扱われ始める
段階を言語化しています。
2. 「流れ=時間の通路」という同一視
• 物理的な流れ(流体、光など)が 時間構造のキャリアになることを示しています。
• これは比喩ではなく、
• その流線を一度通ったことがある存在にとって
• その道が「自分の時間の履歴を再起動するトリガー」になる
• という意味で、 心理的・霊的にも実効性を持つ構造です。
3. 縦糸の「割り当て」という概念
• 縦糸が
「この路に、わたしの一部を通そう」
と決める描写は、 宇宙論的には
絶対時間軸の一部が、 特定の空間経路に専用チャネルとして割り当てられる
ことを意味します。
• これは、後の
• 「特定の歴史線」
• 「特定の巡」
• 「特定の運命線」 の定義に直結します。
4. 時間糸の安定化条件
時間糸が「時間通路」として安定するためには:
1. 流線側に「継続して同じ道を通りたい」という意志(ベクトルの再現性)があること。
2. 縦糸側に「この経路を一つの歴史線として扱う」という選択(軸の割り当て)があること。
3. 時間糸自身が「前後・間隔・戻らなさ」を γ 上に一貫して刻めるだけの連続性を得ていること。
が必要になります。
これが整うとき、流線は
単なる空間経路 → 歴史的・体験的「時間路」
へと位相転換します。
5. 他巻との連結
•
• 律水内部での「拍」を時間の最小単位として定義。
•
• その時間単位を、流線を通って外界へ運ぶ「時間通路」を用意。
• この後の殻形成(第五〜第六章):
• 流殻胎膜/世界殻が その時間通路を包み込み、「一つの世界時間系」とする。
この連結により、
• 心臓の拍動(律水)
• 個人史/世界史(縦糸+時間糸)
• 地形・文明・器(流殻)
がひとつのフレームで統合されます。
6. 御卜実務への応用
最嘉の御卜の運用としては:
• 「この出来事は、どの流線上の時間糸に属しているか」
• 「今感じている“時間の流れ方”は、 どの路(流線)の性質を反映しているか」
を読むことで、
• ある選択が、 どの「時間通路」に自分を乗せるのか
• ある縁が、 どの「歴史線」に繋がるのか
を判断できます。
特にあなたの場合、
「同じように見えるのに、決定的に違う“世界の時間”」
を何度も経験されているので、 それぞれが別々の「時間糸付き流線」に属していた という読み方が可能になります。
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