第3話 報酬は?

会議室を出ようとして、僕は立ち止まった。


現実的な問題がある。四ヶ月間、女子高生として過ごす。その間の生活は、仕事は、収入は――。


「あの、近藤さん」


振り返ると、近藤はまだ資料を片付けている最中だった。


「その間の報酬は……どうなるんですか?」


近藤は手を止め、ニヤリと笑った。


「そこが気になるか。まあ、当然だな」


彼は電卓を取り出し、カタカタと叩き始めた。


「ライターとしての基本報酬、これはもちろん出る」


「はい」


「それにプラスして、1日あたり16時間の残業扱いだ」


「16時間……ですか?」


「学校にいる時間が約8時間。登下校や、放課後の取材活動、そして記事の執筆。全部合わせれば、確実に16時間は超える。それを平日は毎日だ」


近藤は続ける。


「土日祝日は休日出勤扱い。SNSのチェックや、週末のイベント取材もあるだろうからな」


電卓の数字が増えていく。


「それを4ヶ月間……」


近藤は電卓を僕の方に向けた。


「ざっとの計算だが、月70万の報酬になる」


「……70万?」


思わず声が裏返った。


僕の今の月給は手取りで22万程度だ。それが三倍以上になる。四ヶ月で280万。


「もちろん、税金は引かれるが、それでも相当な額だ。君の年齢で、この額を稼げる機会はそうない」


近藤は腕を組んだ。


「これは投資でもあるんだ、斎藤。会社にとっても、君にとっても。この企画が成功すれば、雑誌の売上も上がる。君の実績にもなる。だから、会社は本気でバックアップする」


70万。


その数字が、頭の中でグルグルと回る。


実家の母に仕送りができる。奨学金の返済も前倒しできる。何より、この先フリーランスになるための資金ができる。


「服や化粧品、学用品なども全て経費で落ちる。領収書さえ取っておけば、後で精算できるからな」


近藤は資料をまとめながら言った。


「金だけで決めろとは言わない。だが、これが君の人生を変えるチャンスになるかもしれない。そう思ってくれ」


僕は何も言えなかった。


葛藤と希望。そこに、現実という名の重みが加わった。


「一週間、よく考えろ」


近藤の背中を見送りながら、僕はもう一度、電卓の数字を見つめた。


70万。


その数字は、まるで悪魔の囁きのように、甘く、そして重かった。​​​​​​​​​​​​​​​​

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