第2話 白黒ダブルのエルフメイド


「あのー、それと入り口に『募集を見て来ました!』って人が二人もいますけど」


 ヴェルベローザから手渡された荷物を受け取りながら、ボックが答える。


「おー、ナイスタイミング! メイドの募集してたんだよね。ここまで案内してあげてくれる?」


「我が……?」


「うん、よろしく頼むよ。あんたがばらまいたモンスターがうじゃうじゃしてるでしょ」


 ボックは淡白にそう言って、部屋の中で宅配物を開封していった。


 そして、中から取り出したメイド服を壁に立て掛け眺め始める。


「凄くいい! 完璧なデザインだ!」


「この珍妙な服はなんですか?」


「え? こっちの世界にはメイド服ってないの?」


「えぇ、聞いたこともありませんし。もしかしてまた前の世界のことですか!? ちょ、メモメモ! それで、その服どうするんですか?!」


​「そりゃもちろん、着てもらうんだよ。新しく雇うメイドにね」


​ ボックは鼻歌交じりに、もう一つの細長い段ボールにカッターを入れる。


​「で、こっちがコウモリ用の道具」


​ ガサゴソと梱包材をかき分け、引っ張り出したのは──


 鋭角に尖った背を持つ、木製の奇妙な台座だった。


​「……うっわ~~、なんですかこれ?」


​「三角木馬。コウモリのお仕置き用にいいかなって。ほら、ここに座らせるの」


 角張った三角の天辺を、つんつんと指差しながらボックはいたずらに微笑む。


​「ひえっ……!?」


​ ナッコが顔を引きつらせて一歩後ずさる。


​「ま、魔王を虐める気満々じゃないですか!」


​「冗談だよ、半分くらいは。……お、戻ってきたみたい」


​ 部屋の入り口に、ヴェルベローザが二人の人影を連れて戻ってくる。


​「はぁ…… ボックさん、連れてきましたよ。面接希望の方たちを。なんで我がこんなことを……」


​ 魔王の後ろに立っていたのは、対照的な二人の女性だった。


 一人は、ピンと張った長い耳を生やした活発そうな色白のエルフの少女。


 そしてもう一人は、豊満で艶やかな美貌を持つ褐色のダークエルフの女性。


​「初めまして! 〝エルフなら大歓迎〟って使用人の求人を見て応募しましたっ! ミジューナです! やる気は誰にも負けませんっ!」


​「……同じく、エルフのカトレアンヌと申します。よろしくお願いしますわ」


​ ミジューナと名乗った少女が元気に手を挙げる横で、ダークエルフのカトレアンヌは恭しくスカートの端をつまんでお辞儀をする。


 その所作は優雅そのもの。包み込むような母性的な雰囲気を漂わせていた。


「白エルフは金髪で、黒エルフは黒髪か! うんうん、これこそ至高の黄金比だね!」


 満足そうに二人を見つめるボック。


​ と、そのとき。


​「ん……?」


​ ふと、異変に気がつく。ミジューナの瞳が、部屋の中央に鎮座する〝三角木馬〟に釘付けになっていた。


​「……ひやぁぁ! なにこれなにこれ! いたそー!!」


​「えっ」


​ ナッコが声を上げる間もなく、ミジューナはつかつかと木馬に歩み寄る。


 そして、恍惚に浸りながらその鋭角な背を愛おしそうに撫で回した。


​「この鋭さ…… 角度…… もしやこれは、私みたいなマゾへの福利厚生ですかっ!? なんて素晴らしい雇い主!!」


​「え、あ、え……?」


​ ボックが呆気にとられていると、ミジューナは恍惚の表情でスカートを翻し──


​「では、僭越ながら! 使い心地を確認させていただきますっ! とおっ!」


​ ドンンッ!!


​ 勢いよくまたがった。が──


​ バキバキバキィッ!!!


​ 直後、部屋中に派手な破壊音が響き渡る。


「あちゃ~~~……」


 ナッコは痛々しそうな表情で片目を瞑りながら声を漏らす。


 ボックが取り寄せたお仕置き道具は、エルフ少女の尻の下で無惨にも木っ端微塵に粉砕された。


​「あ……」


​ ボックの間の抜けた声が漏れる。


 残骸の上に尻餅をついたミジューナは、少しも悪びれることなく、潤んだ瞳でボックを見上げた。


​「……えへへ、ご主人様。もう採用厳しいっすか?」


 虚を突かれたボックは、石像のように硬直していた。


「私、もう十回も落とされてるんです! そろそろ雇ってもらえないと……」


​「……いや、あの…… え……?」


​ 沈黙する部屋の中で、ナッコのペンだけが乾いた音を立てて走った。


​(あっちゃ~~、またやっちまった~! チキショー! これで振り出しかぁ~~!)


 心の中では半ば諦めつつも、表面上ではまだ可能性を捨てず、ねだるようにボックを見つめるミジューナ。


「どうするんですかっ、今にも泣き出しそうですよ!」


 そっと小声でナッコが尋ねる。


「いや~~ ん~~……」


 ミジューナは胸の前で祈るように手を組み、瞳を潤ませながら見つめ続ける。


 とうとうボックは、なんとも言えない表情を向けながら答えた。


「……じゃ、まあ。とりあえず…… 試用期間ってことで……」


 その言葉を聞いた瞬間、ミジューナは飛び跳ねて小躍りしながらボックに抱き付いた。


「っしゃオラァァア!!! 作戦成功じゃァァ!!!」


 ミジューナは感極まって、思わず普段の取り繕った性格ではなく本性をさらけ出してしまった。


「おい離れろっ、抱き付くな! てか、えっ!? キミなんかさっきと全然違うくない?!」


「確かに!! こっちが本性なの!?」


 ドキっと冷や汗を溢しながら、ミジューナはわざとらしく声色を元に戻す。


「やだな~~もうっ! ご主人様ったら~~! てへっ」


「なにが『てへっ』だよ…… まったく……!」


 ミジューナに呆れつつも、微笑ましそうに静観するカトレアンヌに気付いたボックが声をかける。


「あっ! カトレアンヌさんは採用だからね! と違って、おしとやかそうだし!」


 ミジューナに指をさしながらそう言うと、立て掛けていたメイド服を取り出し、カトレアンヌに手渡した。


「ありがとうございますわ。ねえ、私のことは本当のママだと思ってくださいね。ボックちゃん♡」


 カトレアンヌは絡み付くような手付きでボックの顔に両手を添えながら言った。


「あはは……」


(大丈夫だったのかな、これ……)


 こうして、ラストダンジョン── もとい悪魔王の宮殿には居候が二名追加された。


「……って、いやいや!! ここ我の根城なんだがァァァ!?!?」


「ドンマイ、ヴェルっち」


 慰めるように、ナッコがぽんと肩を叩いた。


 スローライフのドタバタはさらに加速していく。


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