大人気アイドルを助けたら実はヤンデレでめちゃくちゃ懐かれた

月姫乃 映月

第1話【見つけました、私の運命の人♡】

「…………ん?」


 時刻は夜の八時過ぎ、コンビニから家へ帰ろうと歩いていると、一人の少女の後ろに全身黒色の服を着ている男が歩いている光景が目に止まった。


 別に普通の光景かもしれないが、周りに人は全くおらず、街灯も少ない道。

 何か嫌な予感がした俺はバレないように無意識に男の後を追っていた。


「ッ⁉」


 すると突然男が少女の口を覆い路地裏へと連れ込んだ。

 俺の予感は当たっていた。俺も直ぐに男の後を追った。


「誰!? きゃっ! や、やめて!」


 路地裏を覗くと、男が少女の腕を掴み壁に押し付けていた。

そして男は少女のスカートへとゆっくり手を伸ばした。


「や、ヤダ……やめて……お願い…………やめ……ッ……私まだ…………」


 少女はか細い涙声で必死に訴えているが男が手を止める様子はない。


「やめて、触らないで…………誰か…………」


 どうする⁉ もう警察を呼んでる時間なんてあるわけがない! 

 相手の体型を見るに、どうにかこの男を押さえる事はできそうではある。だがもしこの男が刃物だったり何かしらの凶器を持っていたら危険だ。何の訓練もしてなく技術も無い丸腰の俺じゃ一方的にやられるだけだ。

 だったらこの状況での最善はこれしかないだろう。


「おい、やめろ」


 俺は男に向って走り男の手を掴んだ。


「ッ!? だ、誰だ!」


 男は予想外の出来事に慌てて俺の手を振り払ってきた。


「逃げるぞ」

「きゃっ!」


 俺は彼女の腕を掴んで走った。

 

 走ること数分。来た道を引き返しコンビニに着いた。

 俺は店員に事情を話し、特別にバックルームを使わせてもらえる事になった。


 「だ、大丈夫?」


 そう聞くと彼女は身体を震えさせながら俺に抱き着いてきた。


「怖かった…………」


 彼女は身体が小刻みに震えさせ、涙声でそう呟いた。

 

 それも無理はない。ついさっき襲われたばかりなのだから。

 あんな思いをして怖くないわけがない。


 さっきは暗くて良く見えなかったが、彼女……凄く可愛い。

 彼女は栗色のセミロングヘアでアイドルに居てもおかしくないくらい可愛い。スタイルも抜群で非の打ちどころがない美少女だ。


「とりあえず警察が来ると思うからそれまで一緒に居るよ」

「本当にありがとうございます……私、どうお礼して良いか……」

「お礼なんて良いよ。当たり前の事をしただけだから」


 逆にあんな場面に遭遇して助けない方がおかしい。

 

「あ、あの。私、鈴原花音すずはら かのんって言います。貴方の名前教えてくれませんか……?」

「俺は如月天音きさらぎ あまね

「天音さん……教えてくれてありがとうございます」

 

 ……ん? 鈴原花音……?

 なんかどっかで聞いたことがあるような……それになんかどっかで見たことあるような……。


 ダメだ、全く思い出せない。


「鈴原さんはどうして一人であんな道歩いてたの? 街灯も少ないから女の子一人だと危ないよ」

「すみません。私この辺りの土地に詳しくなくて、少し迷子になってしまっていて……」

「そうだったんだ。でも今度からはなるべく人通りが多くて街灯だったり明かりも沢山ある道を歩くようにね」

「はい。気を付けます」

「……あ、警察が来たみたいだね。じゃあ俺は警察に事情だけ話して帰るから。また会えたらまたね」

「あっ……」


 立ち上がろうとすると、鈴原さんは俺の服の裾を掴んだ。


「どうかしたの?」

「あ、いえ……どうしてもお礼がしたいので、連絡先だけでも教えてくれませんか?」

「本当にお礼とかそんなの良いから。気にしないで」

「でも……」

「じゃあね」


 そう言って俺は立ち上がり、警察に今までの事情を話して家へと帰った。





「行っちゃった……連絡先交換したかったのに……」


 なんだか胸がぎゅーって締め付けられるような感じがして凄い痛い。


 さっき怖い思いをしたからかな……?


「天音くんは私の事知らないのかな……」


 多分天音くんは私と同じくらいの歳だと思う。

 それなのに私の事を知らないなんて珍しいな……。


「え!? あの花音ちゃん!?」


 バックルームに入って来た警察の人は私を見るとそう大声をあげた。


「は、はい。鈴原花音です」

「すげぇ! 本物だ! めちゃくちゃ可愛い!」

「ちょっと、今はそれより花音ちゃんの事件の事でしょ?」

「おっと、そうだった」


 そう言って警察の二人は私の前に座った。


「えっと、まずはどこで襲われたか覚えてる?」

「すみません、私この辺りは全く分からなくて、後で一緒に行くでも良いですか?」

「うん。それでもかまわないよ。でも怖い思いしたのに大丈夫?」

「はい。大丈夫です。天音くんのおかげで落ち着きました」

「天音くん、さっきの男の子ね。それは良かった。じゃあ次に何をされたか聞いても良いかな?」

「後ろから急に口を塞がれて路地裏に連れて行かれました。それでスカートの中に手を入れられそうになったんですけど、彼が……天音くんが助けてくれたので大丈夫でした」


 もし天音くんが居なかったら今頃私はあの男に……。

 

 待っててね、天音くん。連絡先は交換できなかったけど、絶対に見つけて逢いに行くからね。





 あの事件から一週間後の土曜日。俺は休日に起きるいつも通りの十二時くらいに目が覚めた。


 顔を洗って朝昼兼用の食事を作り、椅子に座りテレビを付けた。


『沼田さん、この事件どう思いますか?』

『いやね、僕はこの事件が起きた原因は親にあると思うんですよね。彼の育った環境は――――』


 普段はパソコンやスマホばかり見ているのでテレビは滅多に見ないけど、ご飯を食べる時はたまにテレビを付ける。

 一人暮らしで無音の中ご飯を食べるのは少し寂しい。だから何の番組でも良いからとりあえずテレビを付けてご飯を食べる。


『では次の話題に映りましょう。大人気アイドルグループ【ルミナスクローバー】のメンバーである鈴原花音さんが何者かにに襲われそうになった件についてですね』


「………………は⁉」

 

 俺は思わず手に持っていた箸を落とし固まった。


 テレビには俺が一週間前の夜に助けた彼女が歌い踊っている映像と名前が映っていたんだから。


「は? 嘘だろ!? まさかドッキリ⁉ どこかにカメラでもあるのか⁉」


 あの子がアイドル!? しかも大人気アイドル!?

 ルミナスクローバーって俺でも聞いたことがある。


 鈴原さんがアイドルだとしたら、あの男は鈴原さんのファンでストーカーになったとかだったのか?


『ピンポーン』


 そんな事を思っていると突然呼び鈴が鳴った。


「ん? 誰だ?」

 

 モニターで確認しようとしたが、誰も映ってない。


 俺は玄関まで行き、ゆっくりとドアを開けた。


「えへへ、やっと見つけました。私の運命の人。もう絶対に離しません」

「………………え?」


 ドアの向こうに立っていたのはお洒落な帽子を被り可愛らし笑顔を浮かべる、俺が助けた大人気アイドルの鈴原花音さんだった。



―――――――――

あとがき

一度投稿した作品ですが、アイドルを引退しない方向に変えたく再投稿しました。

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