10代の心の詩集 ―夜の歌―
しとえ
第1集 鳥・歌う・化石・他
001
『灰』
体じゅう中に 火をともせ
夢もかなしみも
火をともせ
たとえ灰になろうとも、
ともせ ともせ
いいじゃないか
灰になれ
死んだらいずれ 灰になる。
002
『一人でだってこわくないだろう。』
夜の道、たった一人で歩いて行こう。
星は見えない、
月もない。
だーれもいない。冷たい世界
風がふく。
街をぬけて、森を抜けて、
ざわめきだけが
道しるべ。
私はもう、迷い子にならない
のだから……。
003
『やどかり。』
小さなからに 私は入る。
小さな小さなからに入る。
からはどんどん小さくなって
……そして 私は 大きくなって
ゆく。
小さな小さなからばかり…。
ぬぎすてた 昨日、
ぬいでしまう今日、
……明日の私はどうなることやら…。
004
『空っぽのカンジュース』
道ばたのカンジュース。
のみかけのカンジュース。
フタもあかないカンジュース。
こわれて、もうない 空カンが
道ばたにころがっている。
カンジュース
カンジュース。
1000年たっても まだのめる。
フタさえ あけなきゃ
まだのめる。
1000年たってもカンジュース。
フタをあければ おしまいだ
フタをあけなきゃおしまいだ。
005
『鳥』
夢の中で鳥になる。
鳥になる。鳥に…
私は翼をひるがえし、
空の青をひきさいて…
飛んでゆく。
どこまでも、どこまでも…。
目を覚ませば、人間で。
それでも 時々思うのだ。
あれは夢などではなくて。
今でも空を飛んでいるのだ。
006
『なきごえ。』
ないているのが 、
コオロギ なのか。
それとも、カラスなのか、
人々なのかは、わからない
―たしかなことは一つだけ。―
ないているのは私じゃない。
私はないたり しゃあしない。
笑って おどって、
いるのだから。
だれもがないて、
何もが灰色
私はないたり しゃあしない。
―これだけは たしか。―
007
『歌う』
さけぶ 様に 歌う 。
笑う 様に 歌う。
たった一人の暗がりで、
たくさんの人々の広場で、
だれも歌など聞いてはいない。
ただ 雑音がのんでゆく。
それでも
私は歌うのだ。
008
『歌う2』
私は歌っている。
たった一人で歌っている。
ずっとずっと……。
歌は こだまし、
散らばって…。
小さな 小さな かけらになって
どこか遠い町
誰かが聞いている。
ずっとずっと
遠いべつの世界で。
009
『歌う3』
聞いている。
ずっとずっと聞いている。
あたり一面にこだまする 、
だれのものだか
…わかりもしない。
ささやく様な 歌声を。
砂つぶの様な 歌声を、
…三千世界にこだまする。
誰のものだか
…わからない。
010
『歌う4』
歌っている。
ずっとずっと 歌っている 。
ざわめきの中で、
だれも気づかない。
小さな 小さな 歌声で、
私は1人 歌い続ける 。
歌え、歌え、歌え。
だれも歌など、聞いてはくれない。
それでも私は
歌っている。
011
『歌う5』
いつからだろう
私は、
歌を歌っていた 。
いつからだろう、
さけぶ様に なげくように。
いつからだろう、
声を出すのを忘れていた。
いつからだろう、
黙っていたのは、
閉ざした世界、ずっと、ずっと、
いつからだろう、
歌っている。
いつからだろう、
さけんでいた、歌っていた。
012
『化石』
砕けた化石、
粉になって 砂になる。
私は 白い 川辺に立っている。
足元には
昨日の私の
化石がある。
昨日、昨々日、ずっと昔、昔の
石になる。
くだけ 散って
粉になって 砂になる。
化石でできた
白い川べりに私は立っている。
…白い、白い、白い…
013
『化石2』
庭の隅のつけもの石、
子供たちの 笑い声、
石けりの 石がとぶ。
だぁれも知らない
その石は貝。
昔々の、太古の時代
―ここは海だったのさ―
だぁれも知らない。
海の底
みんな みんな 忘れても、
だれも かもが 聞いている。
潮騒の音を
石になって 土になって
それでもここは、
海なのだ
『化石3』
1
墓石は ご立派
ミイラにでも、なるおつもり?
石になって、石になって、
冷たくくらい。地面のおくで
…石になってしまうより、
灰になってただよおう。
2
ご立派 ご立派。
化石のみなさま
ご立派です。
冷たく かたく、石になって
世界に飲まれずにいるのなら。
石になって 砂になって
それでもやっぱり
世界はあんたを飲みほすよ。
015
『タンポポ』
冷たい 地面に
葉をのばす。
冷たい 地中に
根をのばす。
ガラン ガラン の風の中、
かたく こわばり
春を、まつ……
016
『タンポポ2』
春風が吹いたら。
花を咲かすとしましょうか。
金色の太陽、
淡い風、
いっぱい、いっぱい
葉を伸ばし。
冷たい風は
…もう吹かない。
017
『砂の城 』
潮騒の音が
聞こえる。
砂のくずれる、…波の音。
どんなに 高く つんだって 、
どんなに 大きくつくっても、
潮にあらわれ、
消えてゆく。
砂の城、砂の城、
私がつくった、おおきなお城、
遊戯はくずれて消えてゆく。
018
『トンネル遊び』
僕は右から手を
いれて、すすんでゆくよ まっすぐに
暗い、暗い、砂の中
すすんでゆくよ まっすぐに
ぽっかりと
光 さして、穴があいたら、
手をつなごう。
暗いトンネルほりすすみ、
穴があいたら、手をつなごう。
…ほら…!…
でもね、でもねぇ、
崩れちゃったよ、トンネルが、
君と手をつないだら、
くずれちゃったよ、
君は笑ってたっけ、ずっとずっと…
019
『棒くずし』
棒くずし 棒くずし
たおれたら まけだよ、
葉っぱのついた棒を立て、
僕がくずすよ、
君がくずすよ、
たおれたら まけさ。
棒くずし 棒くずし
だぁれも いない
たおれた 棒だけが
のこってる。
葉っぱのない 棒だけが、
かわいた 午後の砂場に
のこっていた。
020
『ままごと』
砂のもられた
茶わんには、小さな花びら
のっていた。
君は 笑って さしだした。
砂をまぶした、タンポポの葉
どろだらけになりながら、
笑ってたっけ。
君はもう笑わない。
どろなど おちて、
からっぽの茶わん
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます