三日間プラトニック [ある現象]

玄 律暁(げんりつあき)

三日間プラトニック ★1

 僕が書くことの中でも一番と言えるくらいにプラトニックな話だと自信を持って言えるのだけど、そのように言ったところで何かしら特別なことでもない。であるので言わない。書いてみた。


 この出来事の後から非現実的で理解のできない現象が起こり始め、極めて深刻な問題となり、いまだ解決に至ってはいない。


 始まりはおそらく、この時なんだ。


■ 2001年9月1日


「雄介さんですね。律暁です。よろしくお願いします」

「うんうん、いいよいいよそんなにかしこまらなくて!」

 私が16歳で、彼は21歳だった。私たちはウーハーがあってミラーボールのある賃貸の部屋の一室に集まって酒を飲んでいた。かなりの広さで、現在私を含めて5人いるが、10人以上は部屋には入れそうだ。

 ここは地元の仲間である聡の家だ。彼は地元の高校ではないところへと通っていたので、距離の離れていたところで一人暮らしを満喫していた。


「で、さっき言ったようにこっちがみやびで、あと奏汰、香菜だよ」

 聡が紹介してくれた。私は初めてここに来たので、聡以外は誰も知らなかった。


 雅さんは私の1歳年上で学校へ行っていたとしたら高校二年生だったとのことだ。


 奏汰と香菜は15歳であったので、中学三年生だった。奏汰は髪を金色に染めていて、いかにも素行の悪そうなルックスだ。


 香菜はごく普通の中学生に見えた。しかし普通ではない、ということがわかった。まあここにいる人たちは「何かしらの問題がある」だろうと言うことがわかる。香菜は時々、刃物のような言葉を発する。


 というか、こういった年齢の人々が部屋に集まって酒を飲んでいる時点で皆、世間様とはズレており、


 もちろん私自身も含めてだ。


◇ 聡の問題


 聡の部屋はとにかくうるさかった。けれどもこういった素行の悪い連中が集まって使用している部屋なので、誰も文句を言ってこないらしい。それに、聡の父は何の仕事をしているのか謎なのだけど、尋常ではないくらい金を持っていて、聡にいくらでも金を与えていた。全く羨ましい限りである。MDMAだとかも気前よくくれた。


 先程、全員が何かしら問題を抱えていた、と書いたが、例えばまず聡に関する問題としては 「性別がはっきりしない」 ということだった。


 2024年で言うところのLGBTQの、クエスチョニングであったと思われる。その頃は。


性同一性障害は生まれつきであると思われがちだが必ずしもそうとは断定できないらしい。つまり後天的に決まる可能性もあるということだ。


 しかしそんな概念など毛頭なかった西暦2000年の時点では、聡は差別の対象とされたことがある。そういう時代だったのだ。


 ただ、私は幼稚園までも聡と一緒だったからその辺りはなんとなくわかっていた。


「サトシはなんで女のしゃべり方をするの?」

「お姉ちゃんの生まれ変わりだから!」


 そんな会話をしたことがある。こんなこと言う奴は他に誰もいなかったからよく覚えている。であるから、聡の性別は間違いなく先天的に決まっていた。


 ただ、わからなかったのだ。


 やはり聡自身も迷走していたようで、一時期は女性と付き合っていたが、うまくいかなかったようだ。


 それから何人かの同級生の男と関係を持ったので、まあ、ゲイなんだろうなと考えていた。


 この、関係を持った男たちについて全てを聡が暴露したことから、その同級生の男たちの関係は複雑怪奇なカオスと成り果てたので、私はその奴らとは距離を取っていた。彼らは中学生の好奇心の延長線のノリで行為に及んだ者が大半だったようだが、ハマり込んでいる男も数人いた。そういった奴は、ゲイと呼ぶのだろうか?後天的なゲイか?


 ちなみにサトシにはお姉ちゃんはいないし、いたこともない。


◇ 気がついたこと


 私には幼馴染みたいな知り合いはいないなぁ、と思っていたけど、考えてみれば彼は幼じみだ。それと、聡が私に対して何かしらの行為をしようとしたことは一度もない。他の男にはほぼしようとするのに。たぶん、聡も幼馴染だと思っていたからかもしれない。


■ 2001年9月2日、5時


 朝まで皆んなで酒を飲み数人が眠っていたので(聡に紹介してもらった奴以外に女の子が4人増えていた)私も横になって目を瞑った。しかし当時から睡眠障害があり、全く眠れなかったのだが、黙っていた。

 雄介さんは仕事があるとのことで帰宅しており、聡は見当たらなかった。


 雅と香菜が話している声が聞こえる。


◇ 雅と香菜の問題


小声でもなかったのではっきりと聞こえた。私が完全に眠っていると思っていたからだろう。雅の声だ。

「……で、結局は誰の子だかわからないんだしさ、雄介として、それで出来たってことにする」

「ああーそっかそっか。それいいねー! 私はどうしよう、奏汰、お金ないし……」

「まあでもさ、来年になれば奏汰も香菜も一応働けるんだからいいじゃん」

「……絶対生活していけない」

「……であればまあ……しかないか」

「うん、そうするかな……」


 


 そして、嫌な話を聞いてしまった。


■ 2001年9月2日、7時


 聡は学校へ行くらしく、その間、雅の部屋に居てくれとのことだった。部屋はすぐ隣だった。

 部屋の中は、なんだかよくわからない服だとか布が散乱していて激しく散らかっていた。真ん中にローテーブルがあったが、それもほぼ服で覆われていた。何らかの錠剤が大量に転がっていた。

 そんな部屋であるから座れるスペースはベッドしかなく、雅さんは「おいで、律暁くん」とからかうように僕を呼んだ。いやいや、こちらに寝ますね、とベッド以外のスペースで眠れそうなところを探したが、床に寝転んでも何かしらを踏みつけることになってしまう。


「……んんん」

「まだ眠いでしょ?おいで、一緒に寝よ」

「んいや……」

 普通に寝るだけで良いという確信が持てなかった。

「寝るだけですよね……?」

「えっ、したい?したいの?」

「ええっ、いや、いやっ……するんですか?」

「冗談だよっ」

「……」



 本当に冗談なのだろうか?何を考えているのか全くわからなかった。

 僕は深くため息をついて「……じゃあ、隣、失礼します」と言って雅さんに背を向ける形でベッドに横たわった。


「なんでそっち向くのよー」

「それはですね……こうしないと眠れない体質、なんです」

「そんな体質あるの!?」

「ありますね」

 全く適当なことを言った。

「どういうこと?律暁君はそうやって右に転がった姿勢じゃないと眠れない体質なの?」

「そうですよ」

「へぇー、そういうのあるんだねー……じゃあ、私、そっち行くね」

 と、私が向いている方へとサッと移動した。

「……」

 何も言えなかった。

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