第3話

 その日、家に帰ってきたあと——


 玄関のドアを閉めた瞬間、膝から力が抜けた。

 私はその場にへたり込んでしまった。


 先生とまともに話したことがなかったから、すごく緊張した。

 それに、生徒の時は優しそうで穏やかな雰囲気だったのに、あの時の先生は全然違っていた。


 あの笑顔は、どこか作り物のような気がした。

 本当の先生は、もっと複雑で、もっと深いところに何かを隠しているような——

 まるで、私のすべてを見透かしているような目をしていた。


 ……怖かった。


 でも、心のどこかでは、また会いたいと思っている自分がいた。


 * * *


 次の日の夜。


 高校でクラスは違ったけれど仲が良かった愛美と、駅前のファミレスで夜ご飯を食べていた。

 大学が違うから、こうやって会うのも久しぶりだった。

 近況を話したり、他愛もないことで盛り上がっていた。

 愛美は相変わらず明るくて、大学での面白エピソードを次々と話してくれる。

 いつもなら私も笑って聞いているのに、今日はなぜかちゃんと集中できない。

 昨日のことが、まだ頭から離れていなかった。


「そういえばさー、三年の時の白乃しのの担任の先生、凄いかっこよかったよね。羨ましかった」


 ドキッとした。


「そうだね……全然話せなかったけどね」


「私、また会ってみたいなー。今度一緒に行かない? 高校」


 ──え?


「私も……?」

「一人は緊張するしー!担任だったんだから、白乃がいてくれた方がいい!お願い!」


 どうしよう……。

 ここまでお願いされると断りにくい。


「……わかった。土曜日なら先生、いるかもしれない。たぶん」


 愛美は嬉しそうに笑った。


「やったー!白乃がいてくれると心強い!」


 私は先生に合うのが怖い。

 あの目で見られたら、またあの時みたいに動けなくなってしまうかもしれない。

 でも、愛美の期待を裏切るわけにはいかない。


 それに——心のどこかでは、また先生に会いたいと思っている自分もいる。


 この矛盾した気持ちが、私をさらに混乱させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る